破壊屋ブログ

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映画冤罪事件とスリー・ビルボードの真犯人騒動

三行で結論

ネット上によくある「あの映画の真犯人はアイツだ!!」という記事ですが、

ほぼ確実に真犯人も映画の解釈も間違えているトンデモ記事です。

あの類の記事を真に受けるのはやめましょう。


というわけで今回はこのような映画冤罪事件とTwitter上で話題になった『スリー・ビルボード』の真犯人騒動を解説します。ネタバレはありませんが、ネタバレに敏感な人は気に障ると思うので後半まで読み飛ばしてください。あとリンクは貼りませんが、ググればすぐに当該記事が出てきます。

まずは過去に起きた映画の真犯人間違えている事件です。まあ私も真犯人の解説記事書いたことあるんですけどね。

『セブン』の真犯人はモーガン・フリーマン説

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映画『セブン』はトンデモ解釈ネタの宝庫で、誤読映画の王様とも言えます。特に根強いのは「モーガン・フリーマンが真犯人だった」説です。もちろんバカバカしいトンデモ理論なんですが、あの手この手でモーガン・フリーマン真犯人説を力説している記事が複数あります。

『シャッター・アイランド』の放火犯はレオナルド・ディカプリオ説

シャッター アイランド (字幕版)
この説は某映画評論の記事です。これは流石に公開当時に私が反論記事を書きました。ただこの誤読はちょっと同情できる側面もあって、90年代後半からゼロ年代にかけて主人公が真犯人だったというアメリカ映画がたくさん作られていたんですね。『シャッター・アイランド』もその路線だと匂わせておいて、別のトリックを仕掛けた意欲作だったので誤読を招きました。

『怒り』の真犯人は3人の中にいない説

怒り
『怒り』は3人の男性の中に殺人犯がいるというミステリーで、もちろん3人の内の誰かが真犯人です。しかしこれを否定する映画評論が実際に存在しており
「劇中の犯人や沖縄の「怒り」の意味をぜんぜん理解してねーじゃねーか!」
と怒りたくなります。ちなみにその記事を書いた人が主張する真犯人は
「取り調べしていた警察官」
だそうです。しかもあの警察官は劇中の犯人と実は双子だったからDNA鑑定もごまかせたってトンデモな根拠を出しています。

『スネーク・アイズ』のヒロインは犯人の仲間説

スネーク・アイズ [DVD]

ヒロインであるジュリアが犯人の仲間というのは、映画のパンフレットに載っていた珍解説です。下の画像がそのパンフレットの文章です。
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公開当時別の映画ライターが
「何であんなデタラメな映画評をパンフレットに載せるんだ!」
と怒っていました。 もちろんヒロインは犯人ではありません。
ただ『スネーク・アイズ』には誤読を誘発させる仕掛けがあるのです。映画のエンドクレジットは5分間ずっと工事現場が写っているだけ。映画を最後まで観ると工事現場の意味がわかるのですが、この終わり方を深読みしてトンデモ解釈する人を続出させました。
ちなみにブライアン・デ・パルマ監督のミステリー映画は映画が終わる瞬間に真相が判明したりするので、エンドクレジット周辺をカットするテレビ放映だと映画の真相が完全にカットされていたりします。


『交渉人 真下正義』の真犯人は小泉孝太郎説

交渉人 真下正義

これは非常に珍しい
「映画のトンデモ解釈よりも映画本編のトリックのほうが遥かにトンデモ」
という物件です。『交渉人 真下正義』は押井守監督の『機動警察パトレイバー 劇場版』の帆場暎一のトリック、つまり
「真犯人が既に存在しない」
をやろうとしたんですね。『機動警察パトレイバー 劇場版』は映画のオープニングで真犯人がいきなり自殺するので観客が納得できる形です。しかし『交渉人 真下正義』は
「犯人は幽霊だけど存在する。存在するけど幽霊だから正体はわからない」
というメチャクチャな理論を観客に押し付けたのです。ゼロ年代のフジテレビはこういう暴走した映画を連発していました。
その結果戸惑った観客たちが
「真犯人は小泉孝太郎じゃないか?だってアクセサリーとか怪しい」
という謎理論で盛り上がりました。

ちなみに
「犯人は存在するけど幽霊」
というトリックですが、何と本家本元の押井守監督が某実写映画でこのトリックを見事に使いました。

『スリー・ビルボード』の真犯人は署長説

スリー・ビルボード (字幕版)
上記にあげてきた珍説記事たちは、当たり前ですが賛同者はほとんどいません
それに『スリー・ビルボード』を観た人なら
「署長が真犯人だなんてデマだよ」
とすぐにわかるはずです。ところが現在、Twitter上で大勢の人がデマを信じているんですね。

どうして真犯人を間違えるのか?

真犯人を間違えた記事を書く人は基本的に頭が良い人です。彼らをネタにしている私ですが、記事を読んでいると実は
「俺より頭いいなー」
と思ってます。そして彼らは自分が頭が良いことをアピールしたい気持ちが文章に思いっきり出ています。だから
「誰も知らない自分だけが気づいた真相」
というのを勝手に作り出してしまうんですね。勝手に作り出せるほど頭が良いのです。私はこれをシャッター・アイランド現象って呼んでます。



『スリー・ビルボード』の解説がTwitter上で話題になった現象について

記事の内容

okaemonblog.jugem.jp
↑この『スリー・ビルボード』の解説記事の中から、特にメチャクチャな部分を私が抽出してみました。

  • 署長は騎乗位好きだ。騎乗位でレイプすれば署長が吐血しても被害者に血がかからない。これは署長犯人説のヒントだ。
  • 娘は母親のことを「腐れマ〇コ」と呼んでいたのだろう。だから殺された娘は母親のデート相手に憑依して「チーズ臭い」食べ物を選んだ

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  • セドリックという名前の登場人物がいるが、セドリックは日産の車だ。そして「ニサン」はユダヤ教の暦で1月という意味。ユダヤ教の1月はキリスト教だと復活祭の時期。だから映画に復活祭のシーンがある。
  • 母親の元に鹿が来るシーンは、鹿が広告の間違いを正そうとしているのに母親が気づかない大爆笑シーン
  • 虫がひっくり返っている(BACK)のは、母親の背後(BACK)に警察署があって、警察署に犯人がいると虫が伝えようとしたから。

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  • 殺された娘は最後に成仏できた。『ゴースト ニューヨークの幻』の幽霊の名前が「サム」だ。だから『ゴースト ニューヨークの幻』を想起させるために同じ「サム」という名前の俳優のサム・ロックウェルが『スリー・ビルボード』に出演している。
  • 娘が成仏できた理由は、母親がサム・ロックウェルに「ありがとう」と言ったから。母親は娘に「ありがとう」と言ったことがない。
  • 女性が動物臭いとバカにされているのは、殺された娘が動物に憑依したあとに女性に憑依したので動物の匂いがするから。
  • この映画の登場人物がABBAの『チキチータ』を聴いている理由は、新約聖書にある「ABBA, Father」という一説を観客に想起させるため。
  • ラストシーンの意味はセカンドバージン喪失旅行

今回の現象のヤバいところ

この『スリー・ビルボード』の解説記事は明らかな怪文書です。深読みというか、まるでバカ読みです。でも書いた人は
「私はこういう芸です」
「信じるも信じないも全てあなた次第」
ときちんと明言していて、ネタ系解説の書き手として誠実な方で好感が持てます。知識もあります。しかも今後は署長真犯人説を自分で否定するそうです。

私がヤバいと思ったのは、あの怪文書を信じる人がTwitter上で続出した現象です。

なぜデマ解説を大勢が信じた?

解説の文字数が多いからです。数えてみましたが15万文字ありました。あれが140文字だったら誰も信じません。試しに140文字にして私がツイートしてみました。

1万人近い私のフォロワーのうち数人しかRTしていない上に、RTした人はあの記事信じていない。

情報を多くして信頼性を高めるというのはよくあるテクニックです。投資信託詐欺に騙される人は「年利20%!」とかに騙されたのではなくて、投資信託の情報をちゃんと調べるからこそ騙されているのです。このテクニックは私もたった今使っています。このエントリの最初にある「過去の映画冤罪」は本来『スリー・ビルボード』騒動とは関係のない情報なのに、私の記事の信頼性を高めるためにわざと載せている。

あとTwitterは感情が伝播しやすいツールだというのも大きいはずです。「こんな視点があったんだ!」という驚きの感情がTwitterで伝播したのであって、書いてある内容は関係なかったりするんですね。


ウロコを落としただけなのに

例の『スリー・ビルボード』の真犯人解説記事は「目から鱗が落ちる」という表現を使っているため、あのエントリを読んだ大勢の人が「目から鱗が落ちました!」とTwitter上に感想書いてます。
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私からあなた達にアドバイスがあります。その鱗はあなたにとって大切なものです。決して落とさないでください。



オマケ

鑑賞後に観客が推理する映画

隠された記憶 [DVD]
真犯人が設定されているが、劇中では明示されず、観客が推理する。という映画は実在します。フランソワ・オゾン監督やミヒャエル・ハネケ監督が使うテクニックです。 一番有名なのはミヒャエル・ハネケ監督の『隠された記憶』。劇中では真犯人の断定がないのですが、ラストシーンを集中して見ているとおぼろげながら真犯人がわかります。

逆に鑑賞後に観客が推理する必要のない映画

イニシエーション・ラブ
堤幸彦監督の『イニシエーション・ラブ』は衝撃的なトリックを使った映画ですが、映画のラストシーン5分使って全シーンのトリックを解説するという超親切設計の映画です。巻き戻し再生する必要も、ググってトリックを調べる必要もありません。
「あなたは必ず2回観る」
というキャッチコピーも
「2回観る必要がない」
とネタにされました。