海外ゲームのレベルの高さには常に驚かされてきたけど、これまたとんでもないゲームが存在していた。『バイオショック インフィニット』だ。俺はこのゲームに関する知識が皆無で弟が欲しがっていたのでプレゼントしただけ。弟のプレイをぼんやり見ていたらその凄さに気が付きすぐに弟から奪い返した(俺たち30代)。
以下は俺のプレイ画像。字幕が小さくて読めないと思うので、画像にはそれぞれ解説をつける。
ゲームの舞台は1912年のアメリカ。ゲームが始まってすぐに3人のアメリカのファーザーの彫像に遭遇する。初代大統領のワシントン、アメリカ独立宣言を出したジェファーソン大統領、アメリカ建国の父と呼ばれるベンジャミン・フランクリン(さっきググるまで俺はニューディール政策のほうのフランクリンだと勘違いしていた)。
主人公は「コロンビア」と呼ばれる場所に来たらしい。人々は同じ人種、同じ宗教、同じ政治思想という共通の価値観を持って生活している。コロンビアは良い意味で保守的で住みやすそうな街だ。ちなみに「コロンビア」とはこの女性のこと↓。
コロンビアを作ったのは一人のアメリカ人だ。「ウンデット・ニー(後述)」の後に、天使コロンビアが彼の元にやってきてアメリカ的理想都市のコロンビアを作った。このオブジェは天使コロンビアが預言者となるアメリカ人の元にやってくるシーンを描いている。まるでマリアの受胎告知のようだ。
主人公(プレイヤー)はわけもわからずコロンビアを歩く。愛国少女が赤と青のストライプに星をあしらった花を売っている。
今日はお祭りをやっているらしい。何のお祭りかはわからない。主人公はお祭りの会場に行く。
ここがお祭り会場。野球の硬球を使った遊びがあるらしい。何だと思います?
さあ、お祭りのメインイベントが始まるぞ!お祭りの正体は…
奴隷の黒人女と、その黒人女と恋愛した白人男に硬球をぶつけることだった!
もちろんこれはゲームなのでプレイヤーは選ぶことができる。硬球を男女に投げるか、司会者に投げるかだ。この画像はその選択画面だ。どっちに投げてもストーリーに大きな変化は無い。あくまでもプレイヤーの心の問題だ。
祭り会場から逃げ出した主人公はとある屋敷に入る。そこではジョン・ブースが英雄として扱われていた。
英雄ジョン・ブースは悪魔リンカーンを撃ち殺したのだった!説明するまでも無いが奴隷制度と戦ったのがリンカーン大統領で、彼を暗殺したのがジョン・ブース。
強烈な人種差別が理想都市コロンビアの真実だったのだ。なぜこのような都市コロンビアが生まれたのか?それは宗教だ。劇中の宗教はプロテスタント系のキリスト教を元にしている。ただし預言者はキリストではなくカムストックと呼ばれる人物になっている。
『バイオショック インフィニット』はアメリカ例外主義を再現したゲームだ。アメリカ例外主義とは乱暴に説明すると「アメリカだけが優れてますよ!」という思想のこと。主人公はそんな理想都市コロンビアに反発して戦うわけだが、主人公が正義という単純な話ではない。主人公も元はアメリカの兵士、ネイティブアメリカンの女子供を虐殺しまくった過去を持つ。主人公は悪名高きウンデット・ニーの虐殺の加害者なのだ。
ゲーム的には主人公が様々な武器と超能力を使って戦っていく。一本調子なので難易度を下げれば誰でもクリアできる。映像情報はキネトスコープ(昔の映画)で、音声情報は蓄音レコードで集めるというレトロ感も楽しい。
ただしその世界観をあまりにも濃すぎる!例えばこのゲームはトイレを使うことができるんだけど、臭ってきそうな汚いトイレはアイリッシュおよび有色人種用、清潔で美しいトイレは白人用になっている。
主人公は北京で中国人も殺していた(義和団事件)。わかりにくいと思うが、奥にあるのは悪の中国人軍団と戦うアメリカ白人様の像だ。理想都市コロンビアはありとあらゆる手段で白人以外を悪として扱い、住民たちを洗脳しているのだ。
政治・宗教・人種の問題を強烈に批判する『バイオショック インフィニット』なので、当然のごとくアメリカでは大きな議論を巻き起こした。主人公が白人優遇都市のコロンビアで敵を殺しまくるので、アメリカ国内の保守派からは「これって白人虐殺ゲームだろ!」と批判された。日本ではそんな議論は起きてない。「日本人にはピンと来ない」とも「日本人なので冷静に受け止められる」とも言える。
しかしこのゲームは途中から日本人にもグッサリ来る問題も描き始める。それは労働問題だ。コロンビアが繁栄しているのはそれだけの労働力があるからだ。人々は低い給料で長時間労働を強いられている。有給休暇や早退は認められず、労働者の権利を訴えることは左翼的とみなされる。低所得者は満足な医療サービスが受けられないので病気にかかったらそのままだ。もちろんそれらの利益は大企業が全て吸い上げる。そして貧富の差が拡大する。
早退禁止のポスター。「早退すると仕事取られるぞ!」って書いてある。
『バイオショック インフィニット』の要素はあまりにも多すぎる。このあとはさらにSF要素が出てくる。1912年のアメリカに謎の言葉が登場するんだけど、その言葉とは………「ジェダイの復讐」だ。謎の言葉ではないかもしれない、私たちはその言葉の意味を知っている。しかしなぜなのだ?そして1912年のラジオからはシンディ・ローパーの『ハイスクールはダンステリア』が流れる。
この動画の25秒目から『ハイスクールはダンステリア』が流れる。
『バイオショック インフィニット』は2年前のゲームだけど、それでも「ゲームはここまで来たか!」と驚かされた。冒頭で紹介した黒人にボールを当てるか?それとも差別主義者にボールを当てるか?はゲームにしか出来ない表現だ。
『バイオショック インフィニット』の予告編。ご覧の通りコロンビアとは空中都市だ。BGMはロック・バンド「ニコ・ベガ」の曲なんだけど、「ニコ・ベガ」を作ったのは大作ハリウッド映画でいつも「ちょっとショボいメキシコ人」を演じているマイケル・ペーニャ。
以下はゲーム評論家による『バイオショック インフィニット』のレビュー。どれも良記事。政治や宗教や哲学の知識も必要なんだからゲーム評論家も大変だ…。
dengekionline.com元ネタとなった映画も紹介する電撃オンラインの記事。
doope.jpこのゲームがプレイヤーを試す思考実験であることを解説する記事。
http://www.famitsu.com/blog/mad/2013/04/post_8.html
ファミ通の記事はさすがにわかりやすい。
ゲームをやらない人のために『バイオショック インフィニット』のネタバレを書く。このゲームはネタバレトリックがたくさんあって、その中のたった一つだけど。
https://twitter.com/hakaiya_spoiler/status/579471420549296130
https://twitter.com/hakaiya_spoiler/status/579471464513937408