破壊屋ブログ

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なぜパトレイバーは動かないのか?

映画ブロガーのナイトウミノワさんが『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』を最速試写で観たときのエントリーは話題になった。

THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦/女が! カッコいいです! | 映画感想 * FRAGILE

話題になった理由は映画本編でレイバーが動くシーンの少なさを指摘しているからだ。俺も『首都決戦』観ていたときは気にならなかったけど、このエントリーを後から読んで「そういえば動いてなかったなぁ!」と思った。ハリウッドではロボットが人間以上に動く『トランスフォーマー』や『パシフィック・リム』があるというのに。

なぜパトレイバーファンの俺が慣れてしまったのだろうか。というわけで今回は動かなかったパトレイバーの歴史を解説する。


アーリー・デイズ(初期アニメ)の第一話

記念すべきパトレイバー第一話のコンセプトは「新型パトレイバーのイングラムが到着しない」というもの。前半は主人公たちがイングラムを延々と待ち続けて時間を潰す話。でも後半はイングラムが起動してテロリストのレイバーと戦う。ちゃんと動いていたんだよ!


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イングラムがロケットパンチを放つシーン。モゲた腕をぶん投げているだけとも言う。

アーリー・デイズの第二~四話

しかし第二話からパトレイバーが動くシーンが激減する。特に第三話の『4億5千年の罠』ではイングラムが全く動かない。全く動かないで何をやっているのかというと、主人公たちは怪獣と戦う作戦を立てているのだ。


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しかしその作戦もおざなりになって、こんな感じになる。

二課の一番長い日 前編&後編

前編&後編合わせてイングラムが動くのはたったの4秒!しかしこの4秒はかなり濃い。

主人公たちはテロリストの核ミサイルを搭載したフェリーに奇襲をかけるんだけど、フェリーはどちらかが本命でもう片方が陽動。本命を探るために後藤隊長はイングラムを見せびらかす陽動作戦に出る。しかしこの陽動作戦を若き後藤隊長に教育したのはそのテロリストなのだ!師匠と弟子、どちらの作戦が成功するのか?

『二課の一番長い日』は、『劇場版パトレイバー2』と『TNGパトレイバー 首都決戦』の元ネタであり傑作エピソードとして名高い。


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イングラムではないが、レイバーが高架道路上でヘリと戦うという『首都決戦』っぽいシーンはある。

『特車隊、北へ!』

『アーリー・デイズ』の好評を受けた&映画の宣伝のために作られた追加エピソード『特車隊、北へ!』ではイングラムのバトルアクションが展開する。ただし傑作揃いの『アーリー・デイズ』の中では唯一イマイチなエピソード。

劇場版 パトレイバー1

『アーリー・デイズ』でレイバーアクションが少なかったため、『劇パト1』の製作コンセプトは「レイバーのバトルアクションを描く」となった。
そしてその通りイングラムがガンガン動く!イングラムは東京の下町を破壊しながら大暴れし、クライマックスでは大量の暴走レイバーがイングラムに立ちはだかる。


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敵レイバー零式との決戦では、レイバー独特のアクチュエーター音(関節のモーター)がキュォオオオンキュォオオオンと鳴り響く中、零式とイングラムが激しく戦う。もう大満足!
余談だけど、『パシフィック・リム』のイェーガーは巨大エンジンを積んでいるのでエンジン音、トランスフォーマーは生命体であることを強調するため独特の生命音がする。ガンダムとかマクロスとかのロボット音とはちょっと違う。

テレビアニメ版

おもちゃメーカーのバンダイがスポンサーとなったテレビアニメ。当然ながらイングラムのバトルシーンが多い。第一話と第二話は普通にイングラムのバトルシーンがあった。ところが異変が起きるのは押井守が脚本を書いた第三話『こちら特車二課』からだ。内容は特車二課のしょーもない日常(ハゼ釣り)とかを描いていて、レイバーのバトルシーンが無し!でも『こちら特車二課』も傑作エピソードで、実写版では『三代目出動せよ!』としてリメイクされている。


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『ミニパト』というシリーズでは1エピソードまるごとハゼだけの話もある。

テレビアニメ版

バトルが多いテレビアニメ版だけど押井守脚本のエピソードはとにかくレイバーが動かなかった。『あんたの勝ち!』は第二小隊のメンバーがおでん屋でお酒を飲んでグダグダになるエピソード。パトレイバー史上最高傑作と名高い『特車二課壊滅す!』と、実写でもリメイクされた人気エピソード『地下迷宮物件』の二つはイングラムどころかレイバーそのものがほぼ出てこない。


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パトレイバーの登場人物たちは全員大人なので飲酒描写が多い。

押井守以外の脚本だと現金取得事件を題材にした『野明の冒険』や心霊現象が起きる『闇に呼ぶ声』がレイバーがあまり活躍しない。
テレビアニメ放映も打ち切り間近になると常にバトル系の脚本を書いてきた伊藤和典ですら『CLATよ永遠に』というおふざけエピソードを作った。

NEW OVA版

そしてテレビアニメ終了後のOVA版では、レイバーが戦うエピソードと日常系のエピソードを交互に作るという手法に出た。敵レイバー:グリフォンとの戦いに決着がつくと、日常系エピソードのみとなり遂にイングラムは動かなくなった。

劇場版 パトレイバー2

中学生の頃に映画館で『劇パト2』を観た俺だけど「レイバーが、イングラムが動くシーンが少ない!」ということに衝撃を受けた。イングラムが戦うのはクライマックスのイクストル戦の5分間のみ。押井守の戦争論にとってレイバーはもはやリアリティを妨害するノイズなのかもしれない。押井守のレイバー嫌いについては、13年前だけどこのエントリが詳しい

劇場版 パトレイバー3(WXⅢ)

押井守が直接関わらなくなかった『劇パト3』だけど、さらにイングラムの活動時間が短くなって3分間未満になってしまった。しかも映画は昭和75年を舞台にした映画のため、昭和テイストをブチ壊すことになるレイバー自体がほとんど出てこない

実写シリーズ(THE NEXT GENERATION パトレイバー)

そして実写シリーズは「イングラムは古すぎて動かすのは危険」という設定になった。それでも毎エピソードに数秒でもイングラムが動くカットがあったが、エピソード7~9では一瞬たりとも動かない。その代わりに隊員たちのドタバタした騒動が描かれる。さらにエピソード11『THE LONG GOODBYE』は特殊効果すら一切ない普通のドラマとなったが、ファンからの評判は良い。


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でもイングラムが空手をやるエピソードもあるよ!

動かないほうが面白い

上記で取り上げたイングラムが動かないエピソードだけど、面白いエピソードが多い!特に押井守の脚本は傑作エピソードだらけだ。そのせいでパトレイバーファンも「パトレイバーはSFだけど日常ドラマ」という意識が強くなったはずだ。

だから俺は「(ロボットとしての→)パトレイバーが動かないからこそパトレイバー(←作品としての)」という事実に慣れきってしまったんだなぁ。動くシーンが少なくても満足してしまうくらい、俺のパトレイバーに対するハードルは低い。でも押井守の『パシフィック・リム』と『TNGパトレイバー』の比較論とか読むと「いやレイバーが動かないのは予算の問題でしょ…」って言いたくなってしまうけど。

オマケ:TNGパトレイバーのネタバレだからリンクにしておくけど、日本のロボットは動かないほうがカッコいいの証拠写真