破壊屋ブログ

ネタ系映画ブログです。管理人はこの人→http://hakaiya.com/giccho

吹替版が許されるのは小学生までだよね(という話ではない)


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アメリカ映画の登場人物はスターバックスを嫌い、コール・オブ・デューティで遊び、日本車の悪口を言う。それらが吹替版に反映されることは少ない。この画像のセリフも吹替版だと「チェーン店」になっている。これはイギリス映画だけど。


ワシが吹き替えたろか?

「字幕と吹替、どっちがいいかは?」はよくある話だけど、俺は圧倒的に字幕派だ。最近『ミニオンズ』の吹替版をしょうがなく観に行った。宣伝でネタバレしているとはいえボカして書くけど、劇中出てくる少年の声優がこの人だった。シリーズ映画だから再登板しただけなんだけど、この人は60年代の英米を舞台にした映画の雰囲気にビタイチたりとも合ってなかった。芸能人吹替のせいで映画が完全にブチ壊しになっていた。

字幕で消耗してます

今回のエントリは最近話題になった「まだ字幕で消耗しているの? 吹き替えは楽だぞぉ。」の反論エントリだ。potatostudio.hatenablog.com
でも「吹替版が許されるのは小学生までだよね」は釣りタイトルです(リンク先の記事も釣りタイトルのせいで煽りを食らっていた)。そもそも海外ドラマなんかは俺も吹替版を選ぶ。だから俺はリンク先の記事を書いたブロガーの主張はよくわかる。字幕版よりも吹替版のほうが細かいニュアンスがよく伝わるのは俺もよく経験している。映画は絶対字幕派の俺でも、洋ゲーだと「深く考えずにテキトーにゲームを楽しみたいんだよ!」という時は吹替版を選ぶ。セリフの4割しか再現できないとも言われる字幕版のせいでストーリーが追えなくなる人も多いだろう。

しかしこのエントリに書いてあった

「結論:作品をキチンと理解したいのなら吹き替えで。」
という主張だけはさすがに反論したくなった。俺としては吹替版のほうが作品をキチンと理解しにくい。

「CODE」を日本語にすると?

主人公が体にバクダンを括りつけられる『ピザボーイ 史上最凶のご注文』という映画がある。この映画で一番爆笑できるシーンは吹替版だと面白さがわからない
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一番面白いシーンとは、主人公が悪役に
「バクダンの解除コードを教えてくれ!」
と懇願するシーンだ。吹替版だと悪役はここで
「テレビゲームで裏ワザ出すときの秘密コードか?」
と言う。でも原音では何を言っているかというと…
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「上上下下左右左右BA」
*1。意味がわからない人はググるか、コナミのゲームで遊ぶときにこのコマンドを試してよう。
「上上下下左右左右BA」はコナミが生み出したネタで、日本では「コナミコマンド」、海外では「コナミコード」とも呼ばれる*2。当然外国人よりも日本人のほうが多く知っている。そんな日本ネタでも日本語吹替では再現できていない

ちなみに日本語字幕でも「上上下下左右左右BA」は登場しないけど、裏技コマンドネタは出てくるし「UP DOWN A B…」くらいはヒアリングできると思う。
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差別と言語ネタ

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これは映画『フェイク シティ ある男のルール』で韓国系マフィアと会話する画像。英語では
「オマエはどの人種の犬喰いアジア野郎なんだ?」
と差別丸出しのセリフを言っている。日本語字幕の
「キムチ食いの韓国人?」
は上手い翻訳だ。しかし吹替版だと
「何系の何人かわかんねーよ」
になっている上に他のシーンでも「韓国」という言葉は一切登場しない。主人公の刑事が差別主義者の振りをして捜査するシーンだが、吹替では「主人公が差別主義者の演技をしている」とはわかりにくい。今や差別は欧米の映画を観るときにもっとも重要な要素になっているけど、差別用語も吹替版では再現しにくいのだ。

アメリカ映画で全人類が英語を喋っていたのは昔の話で、今のアメリカ映画は色んな言語が登場する。吹替版だとこれも上手く再現できないんだよね。
『フェイク シティ ある男のルール』でも主人公が韓国人を怒らすために日本語で声をかけるシーンは、吹替版だと中国語に置き換えられていた。「何系の何人かわかんねーよ」というセリフと合わせて「主人公は素で韓国人と中国人を間違えた」と解釈した人は多いだろう。
しかし字幕版なら「本当は韓国の反日感情まで理解しているほどアジアに精通している男」という設定が読み取れる。

吹替版で当たり障りのない会話が出てくるとき

俺が映画館で字幕の『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』を観ていた時に観客全員が大爆笑した名シーンがある。主人公たちが宇宙人に遭遇したときのシーンだ。以下がその爆笑シーンの日本語吹替だけど、ちっとも面白くない。

友人「いったいどういうことだ?どうなってんだよ?」
主人公「俺に聞くなよ、わかるわけねーだろ」
別の友人「おい、何だこれ」
主人公「落ち着け」

実はこのシーン、本当のセリフだと宇宙人について語っていない。WTF(what the fuck=何なんだよ!?)という言葉について語っているのだ。
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宇宙人*3よりもWTFにこだわる主人公を笑うギャグで、ダブルミーニングのセリフを連発する名シーンだ。

ちなみにWTFは全編に渡って登場するセリフで、後半では「宇宙人はWTFを使わない」という設定も出てくる。もちろん吹替版ではその要素は一切無い。

独特なセリフのやり取りは吹替版だと「当たり障りのない日常会話」に置き換えられている。吹替版を観てる時に意味の無い会話が出てくると「ああ、多分ここは面白いこと言っているんだろうな」と考えてしまう。

固有名詞ネタ

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この画像は映画『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』で宇宙人に向かって
「レゴランドに帰れ」
と言うシーン。吹替版だと
「なんちゃら星に帰れ」
になっている。ちなみにこれがレゴランド。東京と大阪にもある。
http://legoland.com/gfx/21824%20LEGOLANDcom%20La_1D8827.png
日本語字幕が無くて日本語吹替オンリーだと、唐突に「レゴランド」と言われてもわかりにくい。「なんちゃら星」という意味のない言葉に置き換えたのは適切な配慮だとは思う。

だけど吹替版だと固有名詞ネタがわからないのはやはり気になる。吹替版が固有名詞を削除する理由を考えてみた。

  • 商品名や企業名があるとテレビ放映時に気を使う
  • 吹替版を観るのは固有名詞の知識が乏しい子供が多い
  • 固有名詞が出てくるとストーリーに没頭できない人がいるので、可能な限り日常会話だけにする。

まあ吹替版にかぎらず字幕版も固有名詞を避ける傾向があるけど、字幕版なら固有名詞は耳で聞こえてくるんだよね。*4


作品の意味が見えなくなる吹替版

今から作品の意味が見えなくなった吹替版の例を紹介する。『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』のラストシーンだ。もちろん完全ネタバレ。


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この画像は映画のクライマックスで、異常なまでに盛り上がっていたBGMが突然止まり、宇宙人と主人公が静かに会話するシーンだ。字幕だと
「酔っ払って騒いでやる」
吹替版だと
「酒かっくらって楽しくやりたい」
と言っている。

俺はこのシーンで全身が震え上がるほど感動した。でも吹替版で観た人は
「そうか、コイツらは酒飲んで騒ぎたいだけか。あれ?でもそれだとラストシーンと矛盾しない?」
と感じているだろう。

字幕ならわかるんだけど、ここのセリフは宇宙人も主人公も音楽の歌詞を使って会話しているのだ。その音楽*5は映画のオープニングで流れている上に、ご丁寧なことにセリフに使われる部分をリピートしてくれる。また字幕版は歌詞とクライマックスのセリフの文字を合わせているので、ヒアリングできなくても
「オープニングはそういう意味だったのか!」
と気がつけるようになっている。吹替版だとクライマックスの意味がわからないのはもちろんのこと、オープニングで音楽がリピートした意味もわからない。

さらに背景を説明すると、これは歌詞というよりもアメリカ映画*6の会話をサンプリングして曲に使っている。その会話は体制側と反体制側のやり取りで、「酔っ払って騒いでやる」と言っているのは反体制の象徴であるピーター・フォンダだ。だから「酔っ払って騒いでやる」には「体制には従わない」の意味もある。

結局、字幕と吹替どっちがいいの?

俺は『ワールズ・エンド』の字幕版も吹替版も何度も観ているので説明が『ワールズ・エンド』だらけになってしまった。誤解の無いように言っておくけど『ワールズ・エンド』の吹替版の出来は非常に良い。『ワールズ・エンド』はコルネット三部作なんだけど、コルネット三部作は固有名詞をマシンガンのように連発するので、字幕版のほうが固有名詞の再現ができていない。『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』のように字幕版が原作用語を翻訳できず、原作ファンが吹替版に逃げた例もある。芸能人が出てこない吹替版なら声優の演技も素晴らしい。
まあ結局は自分の好みのほうを見なさいということです(タイトルだけを読んで抗議する人が多いので文字を大きくしました)。
ただし俺は絶対字幕派なので、劇場公開作の吹替版の多さと芸能人吹替には難儀している。


最後に

今回、初めて脚注機能↓を使ってみたけど、映画の字幕や吹替はこういうのが出来ないから大変だ。

*1:正確には「上下上下セレクトセレクト…」って言っているけど

*2:劇中の悪役は「魂斗羅コード」と呼んでいる

*3:正確には宇宙人が作ったロボット

*4:そういえば映画『TEDテッド』はアメリカの固有名詞ネタを日本の固有名詞に置き換えていたね。 d.hatena.ne.jp

*5:プライマル・スクリームのローデッド

*6:ワイルド・エンジェル