「90年代最高のアメリカ映画は?」と聞かれたら、一番多い答えは『ショーシャンクの空に』かな。俺の場合は『L.A.コンフィデンシャル』だ*1。大学生のときに劇場で観て衝撃を受けて、原作も読むほどハマってしまった。
でも『L.A.コンフィデンシャル』の公開当時の感想には
- 普通の刑事ドラマじゃない?
- 物語が複雑すぎてわからない!
というのが多かった。まあその通りだと思う。
『L.A.コンフィデンシャル』の物語はとにかく複雑だ。どれくらい複雑かというと、この映画を観た人に劇中の強盗事件の真犯人は結局誰だった?と聞いても答えられる人は少ないと思う。ググってネタバレ解説サイトを何個か読んだけど、どれも真犯人のことは無視していた。
最近『L.A.コンフィデンシャル』のカーティス・ハンソン監督が死んでしまったので、久しぶりに『L.A.コンフィデンシャル』を再見した。せっかくなのでこの映画の物語を時系列で解説しよう。時系列で解説するため、すぐネタバレしちゃうので未見の人は気をつけて。
和名表
映画をわかりやすく説明するために、登場人物には俺が勝手につけた和名を使います。
正しい役名 | 演じた人 | 和名 |
---|---|---|
ホワイト刑事 | ラッセル・クロウ | 暴力刑事 |
ヴィンセンス刑事 | ケビン・スペイシー | 汚職刑事 |
エクスリー刑事 | ガイ・ピアース | 出世刑事 |
ステンスランド刑事 | グレアム・ベッケル | 悪徳刑事 |
シド | ダニー・デヴィート | マスコミ |
ピアス | デヴィッド・ストラザーン | 億万長者 |
マット | サイモン・ベイカー | イケメン俳優 |
スーザン | アンバー・スミス | リタ・ヘイワースに似た娼婦 |
パオロ・セガンティ | アンバー・スミス | 用心棒 |
エリス検事 | ロン・リフキン | 検事 |
時系列解説
血のクリスマス事件
- 映画のオープニングはクリスマス。
- 主人公の一人:暴力刑事のホワイトは酒を買いに行く途中で以下のメンツと会う。
- 主人公の一人:汚職刑事はマスコミと組んでイケメン俳優を逮捕する。そしてイケメン俳優の手帳から「白ユリの館」の名刺を手に入れる。
- 警察官たちがメキシコ人をリンチにする「血のクリスマス」事件が勃発する。
- 主人公の一人:出世刑事はリンチに関わった警察官たちを告発してクビにする。おかげで彼は出世したが署内で嫌われて孤立する。
わかりにくいポイント
バズが黒幕の一人なのに序盤しか出てこないのがわかりにくいよね。
マフィア 対 警察
- ミッキー・コーエン(実在のマフィア)が逮捕され、ロサンゼルスの縄張り争いが激化する。
- ダドリー警部は地方からロサンジェルスにやってくるマフィアたちをリンチにすることでロサンゼルスを守ろうとする。リンチ担当は暴力刑事。
- だがダドリー警部の真の目的はマフィアの商売を全て自分のモノにすることだった。
- 殺し屋がマフィアの幹部を殺しまくる。殺し屋の正体はダドリー警部の命令を受けた暗殺部隊だ。
わかりにくいポイント
マフィアの幹部を殺しまくっている暗殺部隊の正体がはっきり描かれない。悪徳刑事、バズ、ブルーニング刑事、カーライル刑事の4人が暗殺部隊です(他にもいる)。ブルーニング刑事、カーライル刑事とはこの画像の左の二名。
マフィアのヘロイン
- 暗殺部隊の一人のバズがマフィアのヘロインを奪う。
- 悪徳刑事とリタ・ヘイワースに似た娼婦は恋人同士だった。彼女の家で悪徳刑事とバズはヘロインを巡って争い、悪徳刑事はバスを殺す。
わかりにくいポイント
ミッキー・コーエン→バズ→悪徳刑事→ダドリー警部の順序でヘロインの持ち主が変わっているのもわかりにくい。このセリフだけでバズと悪徳刑事の関係に気が付かなきゃいけないのも初見では厳しい。
ナイト・アウルの虐殺
- 喫茶店ナイト・アウルで3人組の強盗が客を皆殺しにする。被害者には悪徳刑事とリタ・ヘイワースに似た娼婦がいた。
- 真犯人はダドリーの部下のブルーニング刑事とカーライル刑事。強盗に見せかけて悪徳刑事を殺してヘロインを奪うのが目的だった。
- ダドリー警部が用意した冤罪容疑者は黒人のチンピラ三人組だ。
わかりにくいポイント
ブルーニング刑事とカーライル刑事がナイト・アウルの真犯人。でも各種ネタバレサイトですら、このことは書いてない。
ナイト・アウルの虐殺の捜査(汚職刑事)
ナイト・アウルの虐殺の捜査(暴力刑事)
- 暴力刑事は、クリスマスの夜に犠牲者のリタ・ヘイワースに似た娼婦を見かけたことを思い出した。彼女と一緒にいた億万長者を尋問する。
- 億万長者の正体は女優に似た娼婦を集めた売春組織「白ユリの館」のオーナーだった。
- 暴力刑事は億万長者の用心棒と会う。
ナイト・アウルの虐殺の捜査(出世刑事)
- チンピラ三人組にレイプされていた被害者が「ナイト・アウル事件のときにチンピラ三人組たちは外出していた」と証言した。
- チンピラ三人組は逃走し、銃撃戦になる。カーライル刑事は殉職、容疑者たちを射殺した出世刑事は英雄となる。
- 死んだチンピラ三人組がナイト・アウルの容疑者であることが確定。ナイト・アウルの虐殺事件は解決した。
わかりにくいポイント
ここで真犯人の一人、カーライル刑事が死んでいるんだけど、俺も「あ、カーライルここで死んだのか」と最近気がついた。
億万長者がロスを支配する
イケメン俳優の末路
頑張る暴力刑事
- ブルーニング刑事と暴力刑事は相変わらずマフィアをリンチにかける。
- 暴力刑事はナイト・アウルの真犯人がチンピラ三人組でないと気がついていた。しかし捜査せずにマフィアをリンチしてばっかりの自分に嫌気が指す。
- 暴力刑事は娼婦リンに「あなたもやれば出来るわ」と励まされて、ナイト・アウルの現場写真を再度検証する。
真相に近づく(暴力刑事)
- 暴力刑事は喫茶店で悪徳刑事が真っ先に殺されていることに気がつく。
- さらに喫茶店の食べ物の位置から悪徳刑事とリタ・ヘイワースに似た娼婦が恋人同士だったことに気づく。
- 暴力刑事はリタ・ヘイワースに似た娼婦の家に行き、バズの死体を発見する。
- 暴力刑事は億万長者の用心棒を拷問してバズがヘロインを持っていたことを知る。
わかりにくいポイント
この映画で観客が一番混乱する原因は、重要人物のバズが死体になっているので、重要人物っぷりがイマイチわからないということ。
真相に近づく(出世刑事)
- レイプ事件の被害者が「証言はレイプ犯たちを殺させるためのでっち上げ」と出世刑事に伝える。
- 真犯人が別にいる可能性を疑った出世刑事はナイト・アウルの虐殺事件を再び捜査しようとする。
- 出世刑事は汚職刑事にナイト・アウル捜査の助っ人を頼む。
- 汚職刑事は出世刑事が自分の手柄をぶち壊そうとするのが理解できない。
- 出世刑事はロロ・トマシについて語る。
逆にわかりやすいポイント
ここでは解説しないけど「ロロ・トマシ」は複雑な物語を一気にシンプルにする見事なトリック。
出世刑事と汚職刑事が手を組む
- 汚職刑事は出世刑事に「白ユリの館」に関する情報を全て渡す。
- 二人は用心棒を尋問しようとして、うっかりラナ・ターナー(実在の人物)を…。
- 二人は億万長者を尋問する。空振りに終わるが、警戒した億万長者はマスコミに連絡する。
- 出世刑事は娼婦リンの誘惑に引っかかり、セックスする。これをマスコミに撮られる。
劇中何度も登場している用心棒のジョニー・ストンパナートだけど、彼が事件にあまり関係ないのもわかりにくいポイント。実はジョニー・ストンパナートは実在の人物。ギャングの用心棒だが、ラナ・ターナーの愛人でもある。この知識が無いと「誰これ?」状態になる。
真相に近づく(汚職刑事)
- 汚職刑事は警察署内の12年前の記録を調べて悪徳刑事とバズが手を組んでいることに気づく。
- 汚職刑事は出世刑事をバーで待つが、出世刑事は女と遊んでいる。
- しょうがないので汚職刑事は悪徳刑事とバズの上司だったダドリー警部に会いに行く。
- ロロ・トマシが登場する。
わかりにくいポイント
12年前の記録がダドリー警部に繋がる記録だ。これがダドリー警部がわざわざ手を汚した動機。
ロロ・トマシの暗躍
- ダドリー警部は12年前の記録を盗んで処分する。
- ダドリー警部は暴力刑事にマスコミを拷問させる。でもこれはマスコミとダドリー警部の演技で、暴力刑事が娼婦リンを出世刑事に寝取られたことを気づかせるのが目的。
- ダドリー警部とブリーニング刑事はマスコミを殺す。
わかりにくいポイント
ダドリー警部が12年前の記録が盗んで処分しているのは、初見ではまずわからない。
暴力刑事と出世刑事が組む
- 12年前の記録は無くなったが、出世刑事は過去の業務日報を調べることでダドリー警部、悪徳刑事、バズがグルだったことに気づく。
- 12年前、彼らは億万長者のピアスを取り調べておきながら不起訴にする。そしてこのときにピアスやマスコミともグルになった。
- 暴力刑事は悪徳刑事とバズの関係を出世刑事に伝える。
- 出世刑事は汚職刑事が持っていた情報を暴力刑事に伝える。
- 全ての情報が出揃い、彼らは組む。
わかりにくいポイント
事件の真相である「刑事たちがグルになってマフィア化していた」という点にもうちょっと伏線貼って欲しかった…。でもロス市警とマフィアの癒着は有名な実話なので伏線がいらないのかも。
クライマックスへ
- ゲイの検事が暴力刑事の拷問によって全ての情報を喋る。
- 億万長者もダドリー警部に殺される。これで全てがダドリー警部のものになる。
- そしてクライマックスへ…。
わかりにくいポイント
もう一人の真犯人:ブルーニング刑事は暴力刑事に撃たれて死ぬ。クライマックスのブルーニング刑事は一番ハッキリ顔が写っている画像でこの程度。リピートしないと気がつくのは無理。
最後に
この映画のわかりにくさは欠点では無いと思う。情報が極端に多いからこそ、3人の刑事がそれぞれの情報を持ち寄るシーンにミステリー的な興奮が発生する。そもそもこの映画を理解するために今回解説したポイントを抑える必要はない。理解すべきなのは三人の刑事の行動原理だ。
- 出世刑事:出世をふいにしても真犯人を捕まえたい→やっぱり出世のために全て利用してやる
- 汚職刑事:汚職に疲れた→ちゃんと捜査することで償いたい
- 暴力刑事:マフィアをリンチするのが嫌だ、俺も捜査したい→やっぱりぶっ殺してやる!
名演技を見せる三人の行動が少しづつ真相に近づいていく。これが90年代最高クラスのアメリカ映画たる所以だ。
『L.A.コンフィデンシャル』の汚職刑事と暴力刑事を足して割らなかった女性警察官が主人公の作品。米倉涼子で映像化された。