破壊屋ブログ

ネタ系映画ブログです。管理人はこの人→http://hakaiya.com/giccho

映画『別離』が描く女性の介護職問題

土俵問題

女性と土俵問題は、日本のダメっぷりが凝縮された事件だ。俺も含めて多くの日本人が呆れていたり怒っていたりする。擁護する声は少なく八角理事長ですら即謝罪した。あの最低のアナウンスをした行司は
「女性が土俵に上がっていると観客から怒号のように指摘されたから」
と釈明した。この釈明の真偽はともかくとして、あの状況で女性を土俵に上げるな!という怒号をあげる一般市民が怖い。

プール問題

話変わって去年、ヨーロッパ人権裁判所がこんな判決を出した。
www.cnn.co.jp
判決の目的は移民にも差別なく同等の教育を保証することだ。一部のイスラム教徒も支持していた。俺も支持している。だけどこの判決に異論を唱えるアカウントが多かった。
で、そのアカウントたちが「女性と土俵」問題に対してどういう意見表明をしているのか、ちょっと調べてみたら彼らは怒っていた。土俵から女性を降ろそうとすると怒るのに、イスラム教徒の女児がプールに入る時は異論を出している。

ダブルスタンダード

「差別はダメだけどイスラムが絡むとOKになる」
というダブルスタンダード現象がある。アメリカの有名な例だと、キリスト教徒が同性愛に反対すると大炎上(商売先にまで抗議がいく)するのに、イスラム教徒が同性愛に反対してもスルーされる。

このダブルスタンダードの顛末は「見えない道場本舗」が見事にまとめています。
d.hatena.ne.jp

はてなブックマークだと、幸福の科学の悪口を書いているアカウントが、イスラム批判になると「宗教差別」を持ち出してくる。
イスラム教徒自体が激烈な差別と偏見に晒されているので、彼らを守るためにこうしたダブルスタンダードが発生するのはある程度理解できるけどさぁ。

男性の裸を見てはいけない

この手の話題になると
「イスラム教徒の女性は肌を見られるのを嫌がる」
という意見がたくさん登場するけどそれはちょっと違う。肌を見せるだけじゃなくて、男性の肌を見るのもNGという考え方も強い。さっき話題に出した裁判も肌を隠すブルキニが着られる状況だったけど、そうじゃなくて両親は男女混合の水泳授業を拒否したのだ。

イラン映画の傑作『別離』

相撲の伝統とイスラムの教義を同じ様に考えるのは不適切だと感じる人がいるかもしれない。でも女性による土俵上の救命活動と、女性のイスラム教徒による介護問題は通じる部分がある。イラン映画の大傑作『別離』に考えさせられる状況がある。認知症の老人が粗相をして、介護職の女性が着替えさせようとするシーンだ。
f:id:hakaiya:20180408115554p:plain
f:id:hakaiya:20180408115601p:plain

厳格なハラルの考え方ではNGな行為なので、女性はこの行為が罪になるのかイスラムの聖職者に電話で相談する。聖職者は「着替えを避けるべき」と色々なアドバイスをする。相撲の行司のように。この女性は電話を切って、着替えさせる決断をする。

救命と介護

女性の救命活動どころか介護がNGとされる風潮はたくさんある。「俺の妻が男性を介護するなんて許さん!」とイスラム教徒の夫が介護職の妻を殺したのは昔の中東の話じゃあない。2016年のイギリスの事件だ。今年の2月には外国人労働者が介護職に携われるように安倍首相が指示を出した。日本でも介護とイスラム教徒の問題は増えていくはずだ(そしてイスラム教徒への差別も増えていく)。イスラム教徒の女性が着替え問題に直面したとき
「いやいや、介護なんだから着替えもやるべき」
という意見は宗教差別になるかもしれない。セクハラかもしれない。だからといって逆の意見は
「女性を土俵にあげるな」
と同じ態度かもしれない。ダブルスタンダードというよりもダブルバインドだ。

女性を土俵に上げるな!という怒号をあげた一般市民も、正義だからといって悪口を書きまくっている一般市民も結局は同じ土俵かもしれない。

f:id:hakaiya:20180408115610p:plain
(認知症の老人を着替えさせた女性は、その後非難される)




オマケの映画紹介:『ペルセポリス』

今回の土俵騒動では、「昔は女性も土俵に上がっていた、土俵の女性禁止は後付けの伝統だ」という話が一番面白かった。イラン人女性が原作を書いた映画『ペルセポリス』も、イランでは女性たちが自由に暮らしていたのに、ヒジャブなどの伝統をどんどん押し付けられていく歴史を描いていて面白い。
hakaiya.hateblo.jp



『別離』の軽めのネタバレ

『別離』の主人公家族はリベラル寄りのプチ富裕層だ。妻は保守的な社会を嫌い、国を出て娘を育てようとする。だが夫にはアルツハイマーの親がいて国を出ることが出来ない。主人公家族は介護職の女性を雇って親の面倒を見させている。その女性は妊娠していたのだが、介護の重労働のさなか胎児の状態に異変が出る。しかし徘徊癖のあるアルツハイマーの老人を残して病院に行くことはできない。そこで女性は老人をベットに縛って病院に行く。
ベットに縛り付けられた親を発見した主人公は激怒、女性を家から叩き出す。そのショックで女性は流産する。

宗教が違うとはいえ日本でも通じる映画だ。リベラルな主人公家族は、介護職の女性の保守的なイスラム教徒家族と対立していく。保守的な夫は暴力的に描かれるけど、神の前では誠実で真摯な人間であることも描かれる。