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破壊屋ブログ

ネタ系映画ブログです。管理人はこの人→http://hakaiya.com/giccho

イスラム教と神を描いたフランス映画『ペルセポリス』

時事ネタ 映画の解説

フランスでムハンマドの風刺画をきっかけとしたテロ事件が起きた。なのでイスラム教と神を題材にした2007年のフランス映画『ペルセポリス』を紹介する。

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イラン人女性のマンガが原作

『ペルセポリス』は白黒のアニメだ。原作マンガ『ペルセポリス』を描いたのはイラン人の女性漫画家マルジャン・サトラピで、本作は彼女の自伝になっている。映画の製作国はフランス・イラン・アメリカの合作。オリジナル版の言語はフランス語だけど、英語版の声優はショーン・ペンやイギー・ポップと割と豪華。欧米ではマンガ・映画共に絶賛を受けておりロッテン・トマトの評価はなんと96%だ。


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このキャラデザインと「マルジ」というヒロインの名前から、公開時の日本のネット上では『ちびまる子ちゃん』を連想する人が多数だった。



リアルマルジことマルジャン・サトラピ

ヒロインの設定

ヒロイン:マルジ(マルジャン・サトラピ)はイランに住む少女。アクションスターのブルース・リーとメタルバンドのアイアン・メイデンが大好きで、ABBAが嫌いという映画秘宝の読者みたいなイラン人だ。マルジの夢は最後の預言者になることで、マルジの夢の中では時々神様が自分を応援してくる。


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パリにブルース・リーがいると信じている。

これから映画の前半部分のみストーリーを解説します

イスラム共和国の誕生

映画の始まりはマルジが9歳の時。マルジは優しい家族の元で幸せに生きているけど、家族は富裕層でリベラルでそして反体制だ。親戚の中には共産主義思想が原因で刑務所に入っている者や、処刑された者もいる。
しかし現体制がイスラム革命によって倒された。反体制側だったマルジの家族たちは最初こそ喜ぶが、すぐにイスラム政治による圧政が始まった。

イスラム社会

イスラム革命の次にイラン・イラク戦争が始まると、イラン社会はイスラム法をより厳しく適用してきた。そのためマルジたちの生活は悪い方向へと激変する。

  • 女性はすべてヒジャブ(スカーフ)を被らなくてはいけない。夏でも。被らない女性は地獄に落ちる。そのうちヒジャブどころか全身を布で覆うようになる。
  • 飲酒とトランプゲームは禁止される。
  • 14歳の少年も戦争に駆り出されるようになった。どうやって少年を戦争に誘うかというと「戦死して天国に行けば複数の女とヤレるよ」と言うのだ。性に興味のある少年にとっては魅力的な話だ。これはイスラムの教えに本当にある上に、近年でも同じ理由で少年テロが起きている
  • 共産主義者の女性は死刑にされた。イスラムの教えでは処女は処刑できないのでレイプしてから殺す
  • イスラムに忠誠を誓わない政治犯たちは死刑になる。そんな状況なので政治については誰も語らないようになった。
  • 女性が街中を走ると怒られる。なぜなら走るとお尻の筋肉が動くから。
  • 公共の場所では男女の区別は徹底される。カフェでも別々のところに座る。
  • 離婚した女性は処女じゃない独身女性になので街中の男たちからセクハラを受ける。


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街で男に暴言を言われるマルジの母。なんでこんなこと言われるのかというとヒジャブから前髪が出ているから。

ゴジラがやってきた

宗教、圧政、密告、戦争によってマルジたちの生活には自由が無くなった。映画『ペルセポリス』ではこのような不条理をゴジラとして風刺する。ゴジラが建物を破壊し人間を殺す描写は、家族が処刑され家が爆撃されるマルジたちの恐怖の比喩だ。
劇中ではゴジラに踏み潰されるのに逃げずに祈っているだけの人が登場する。これは現状から逃げようとしないマルジたちの比喩だ。


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どうでもいいが、俺はゴジラは比喩表現の王様だと思っている。放射能、自然災害、戦争、野球の強打者…。

ゴジラから逃げる

14歳になったマルジは、学校の授業でイスラム社会の素晴らしさを教えられる。それに怒ったマルジは授業中に現体制を批判し、同級生の少女たちから拍手喝采を受ける。マルジの母親は娘がいずれイスラム社会の弾圧の犠牲者となることを恐れた。母親はマルジをオーストリアのウィーンに留学させる。映画のストーリー解説はここまで。映画の後半では西洋社会に戸惑うマルジが描かれる。


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殉教者のモノマネ芸でクラスメイトを笑わせるマルジ。マルジはスニーカーを履いているので革命委員会に補導されそうになる。

「預言者」とは?

マルジの夢は「最後の預言者」になることだ。「預言者」はどういう意味かというと神の言葉を伝える人のこと。
キリスト教、ユダヤ教、イスラム教は同じ考え方の宗教だったりする。つまり唯一絶対の神がいて神の言葉を伝えるためにイエス・キリスト、モーセ、ムハンマドといった預言者が地球に誕生したのだ。イエス・キリストもモーセもムハンマドもとどのつまりは大川隆法と同じアレ系な人!歴史級の老害野郎ども!というような危険な意見は俺が書くので、みんなは例え思っても口に出さないほうがいい。

「最後の預言者」とは?

で、最後の預言者とはムハンマドのことだ。神の言葉を世間に伝えたとされる預言者は何人かいるが、一番最後の預言者であるムハンマドが一番偉いというイスラム教の考え方なのだ。イスラム教ではムハンマド以降に預言者は出現しないことになっている。
そして幼いマルジの夢は自分が新しい預言者となって平和を願う神様の言葉をみんなに伝えることだ。

『ペルセポリス』の描写はNGなのか?

イスラム教では偶像崇拝の禁止が徹底されており神を描写することは許されない。日本のネット上でも、ムハンマドを過激に挑発していたフランス・テロ事件の被害者へのバッシングが強い。しかし『ペルセポリス』は神を具体的なキャラクターとして描写した。勇気ある演出だ。


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神に話しかけられるマルジ。これがホントの神作画。

反応

イスラム圏の国々ではやはり神を描いたシーンが問題となり『ペルセポリス』は上映できない。批判的に描かれたイラン政府はかなり怒っており『ペルセポリス』を上映する映画祭に抗議文を送りつけ、バンコク映画祭は上映中止を決定して大きな話題になった。ただし問題シーンをいくつかカットしたバージョンはイランのテヘランでも上映できた。
チュニジアでは『ペルセポリス』のテレビ放映時にFacebookを通じて「テレビ局に火をつけ、ジャーナリストを殺せ」という呼びかけが起こり、実際にテレビ局前でデモが発生してニュースになった(注:チュニジアは「ソフトイスラム」と呼ばれるイスラム穏健派の国)。



『ペルセポリス』は本当に素晴らしいアニメ映画なので、日本でも臆することなく民放で放映してほしい。体制の中でたくましく生きていく女性とその家族のつながりを描いた傑作だ。

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イラン・イラク戦争をきっかけにイスラム体制が圧政となっていく様は、昔の日本っぽい。日本も日中戦争や大東亜戦争をきっかけに天皇を中心とした国体思想がさらに強化された。

なおマルジャン・サトラピ本人はフランス・テロ事件に関して「Je suis Charlie(私はシャルリー)」をあげ、インタビューでも襲撃された週刊誌の方針を強く支持している。彼女はイランにいたままではイスラム政権を皮肉的に描くことはできなかった。フランスだからこそイスラム政権を描くことができたのだ。