私のフェイバリット・UKバンドであるプロディジーがソニマニ&サマソニで来日します。プロディジーを知らない人にプロディジーの偉大さを伝える手っ取り早い方法はCDの売り上げです。特に三枚目のアルバム『The Fat of the Land(通称:蟹ジャケ)』はダンスミュージック*1としては異例の1000万枚以上を売り上げてギネスブックにも載っているほど*2。他にもプロディジーが音楽業界やファッションに与えた影響は多大すぎます。
が、今回はプロディジーを語るときに真っ先に外すべきゼロ年代前後の迷走期間について紹介します。プロディジーは1997年の『The Fat of the Land』があまりにも大成功すぎて、その後自らの栄光に首を絞められる形で迷走するのです。
2001年:軍事路線になる
プロディジーの曲は軍事色が結構強いです。曲名や歌詞には軍事用語がよく出てきます。極め付けだったのは2001にプロディジーは『Nuclear(核兵器)』と『Trigger(引鉄)』というシングル候補の曲を作ってワールドツアーに出ました。日本にも来ました。当時のプロディジーの出囃子は軍隊マーチで、ライブグッズは軍服(私は買った)で、プロディジーを象徴する蟻のマークは脳内ミサイルに変更されました。
しかしこの軍事路線のツアーは、皮肉にもアメリカ同時多発テロという軍事事件によって中止になります。
2002年:デートレイプを煽って大炎上
プロディジーが2002年に発売したシングル『Baby's Got a Temper』は、プロディジーのメンバー自身も批判するほどの失敗作…というか大炎上作でした。炎上の原因ですがサビの歌詞がレイプドラッグのロヒプノールを肯定的に取り上げたもので、和訳するとこんな感じ↓。
「ロヒプノール大好き!女性にロヒプノール使った!(レイプしたけど)彼女は覚えてない!」
レイプドラッグが社会問題になっていた時期にリリースされたこの曲はマスコミから猛批判を受けました。
「かつての彼らはファイヤースターター(世間を騒がす火付け役)だったが、今はjust total fucking idiots(単なる超絶バカ)になった」
という評論が有名です。
『Baby's Got a Temper』はアルバムに収録されることはなくライブでも披露されません。
2003年:ソロデビュー失敗
プロディジーのボーカルだったキース・フリント(南部虎弾みたいな人)は90年代後半のイギリスを象徴するアイコンになりました。レコード会社はメンバー三人を仲違いさせてまでキース・フリントのソロデビューを画策。「フリント」というロックバンドが結成されて各地でライブを重ねデビューアルバム『DEVICE#1』を作りました。
が、先行シングルの売り上げが悪すぎたためにデビューアルバムの発売は中止され、アルバムを一枚も出さずに解散という瀧本美織のLAGOONよりも酷い結果になりました。
ちなみに『DEVICE#1』はYOUTUBE上に流出していて全曲聴くことができます。
2004年:アルバム全曲ボーカルが別人になる
上記の騒動の余波で『Nuclear』と『Trigger』は音源すら発売されずボツになりました。NuclearとTriggerはファンの間でも話題になっていた名曲なのでかなり衝撃的でした。ボツにした理由は音楽性を変えるためです。プロディジーは『The Fat of the Land』の音楽性を引きずっていることを批判されていたので、これを無理矢理変えたのです。どうやって音楽性を変えたのかというと…プロディジーはボーカル二人のツインMCなのですがアルバム全曲ボーカルを別人にしたのです。代理ボーカルはオアシスのリアム・ギャラガーや女優のジュリエット・ルイスなどかなり豪華でした。
流石にこれは酷すぎたのか、現在ではこのアルバムの曲はライブではやりません。
余談ですが、当時のシングル曲『HOT RIDE』のPVは日本人の子供たちが女性を誘拐するという内容です。
2009年:大復活!
10年以上に渡って迷走を繰り返したプロディジーですが、2009年のアルバム『Invaders Must Die』が売上的にも批評的にも成功して大復活を遂げます。「Invaders Must Die(侵略者に死を)」は「メンバーたちの仲違いを画策する奴らに死を!」という意味で、無事仲直りも果たしました。ちなみにプロディジーは性的な曲が多いのですが、このアルバムだけは性的な曲がありません。
2013年:またケンカ
プロディジーは「曲を発表する→無かったことにする」が非常に多く、ファンもメンバーもしょっちゅう困惑しています。2013年頃に新アルバム『How To Steal A Jet Fighter』を製作すると発表して、ライブで何曲か披露したのですが、その後にリーダーのリアムが全曲ボツにして一から作り直すことになり、メンバー間がまた仲悪くなったらしいです。この
「リーダーがアルバム製作に時間をかけるので、その間収入が途絶えるメンバーが怒り出す」
は英米のバンドあるあるですね。日本でもあるのでしょうけど。
2015年:また復活
紆余曲折を得たアルバム『The Day Is My Enemy』は成功し、プロディジーはまた復活します。
余談ですが、音楽の歴史上もっとも議論を巻き起こしたと言われるプロディジーのヒット曲『Smack My Bitich Up(俺の女をぶちのめせ)』は2023年に歌詞が変更されています。今回の来日では歌詞変更バージョンが聴けるはずです。