アメリカ映画史における重要作であり黒人差別を描いた大傑作である『夜の大捜査線』が大好きでDVD持っているのに、U-NEXTでも観ていた。
妻に
「何を観ているの?」
と言われたので
「夜の大捜査線」
と答えたところ
「エロいの見てる」
と言われてビックリした。
「夜の」をつけるとエロい意味になる、というギャグは理解できるが私は「夜の大捜査線」という言葉にエロい意味は全く感じ取れない。ああそうか『踊る大捜査線』が原因なのか。「踊る大捜査線」のパロディ的な単語として「夜の大捜査線」と聞くと確かにエロい意味を感じてくる。でも実際はパロディの立場が逆転している。経緯はこうだ↓
- 『In the Heat of the Night(夜の熱気の中で)』が『夜の大捜査線』という邦題で公開される。
- 「大捜査線」という言葉が日本で定着してドラマのタイトルなどで使われるようになる。
- そのパロディタイトルとして『踊る大捜査線』がある。
まあ、そんな話は置いといて今回は現代日本人にはピンと来ない『夜の大捜査線』の面白ポイントを紹介します。まずは映画の序盤だけを紹介。
映画の序盤
黒人差別の激しいミシシッピ州の小さな町で、白人が殴り殺されて財布が奪われる事件が発生する。白人の警察官は夜の駅で「黒人が出歩いていた」ということで黒人を逮捕。財布の中に現金もあったので、黒人男性が犯人だと確信する。
早速取り調べを受ける黒人男性。実は彼はフィラデルフィアの殺人課の敏腕刑事だった。財布の中に大金が入っていたのは高給取りだったからだ。この黒人男性が主人公。
主人公はフィラデルフィアの署長に身元を保証してもらうが、署長は「ついでに事件解決に協力しろよ」と命令。白人の警察官たちは殺人事件の捜査方法など知らないのだ。主人公はアメリカ南部の激しい差別に晒されながら、この事件の捜査を始める。
映画史上最高の名セリフ
映画史上最高の名セリフの一つとして有名な
「They call me Mr Tibbs(ミスター・ティッブスだ)」
だけど、日本語版だとサッパリ分からないので解説します。
このセリフは日本映画史上最高の名セリフである『AKIRA』の
「さんをつけろよデコ助野郎」
とやや似ている。
主人公の名前は「バージル・ティッブス」なんだけど、この「バージル」がお洒落な名前なのだ。白人から見ると黒人っぽくなくてギャグも同然。
だから主人公が名乗ると白人の警察官が笑いだす。さらに白人の警察官たちは面白がって「バージル」とファーストネームで呼び捨てるのだ。「バージル」と言われるたびに主人公は一瞬固まるんだけど耐える。
そして白人の署長から
「バージルはニガー・ボーイにしては粋な名前だ、お前の地元のフィラデルフィアでは何と呼ばれている?」
と聞かれる。ちなみに黒人男性に向かって「ボーイ(坊や)」と呼ぶのは奴隷制度の名残のため差別的な表現だ。
それに対して主人公は
「They call me Mr Tibbs(ミスター・ティッブスと呼ばれている)」
と激怒する。
つまりこれは「ミシシッピとは違ってフィラデルフィアだったら、ちゃんとファミリーネームで呼ばれている。ミスターも付けてもらっている。お前らと違って洗練されている!」というシーンなのだ。
歴史的衝撃シーン
これは劇中の平手打ちシーン↓今となっては全く普通のシーンに見えるけど、実は歴史的なシーンで公開当時は黒人たちが「このシーンを見るために映画館に駆け付けた」というほど衝撃的だった。
youtu.be
黒人が白人に暴力を振るうなんてあり得なかったのだ。当時は公民権運動が盛んでこのシーンは「これからの時代は黒人もちゃんと抵抗する」を表現している。
逆偏見
この映画は黒人男性の主人公が酷い偏見と決め付けに晒される映画だ。でも実は主人公も偏見と決め付けを持って捜査しているんだよね。U-NEXT版もDVD版でも翻訳が不十分で分かりにくいけど、主人公は「黒人を差別する人が犯人であって欲しい」と思って誤った捜査をしている。
撮影
劇中で橋の上を逃げる男性にズームインするシーンと、列車の中にいる主人公の顔を写しながらカメラがズームアウトするシーン。今となっては普通の撮影だけど、当時としては画期的な撮影だった。
というわけで『夜の大捜査線』はエロくない映画なんだけど、よく考えてみればこの映画は「夜になると16歳のエロエロ美少女が全裸でウロついているので*1、警察官がパトロールついでに様子を見に行く」がオープニングであり、それが事件に繋がっていくので、まあエロい意味も当たりかもしれない。
*1:演じる女優は25歳