破壊屋ブログ

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アカデミー賞の視覚効果賞の悲劇

『ゴジラ -1.0』が受賞したアカデミー賞の視覚効果賞だけど、過去に悲劇的なエピソードがあるので解説します。

ライフ・オブ・パイの悲劇

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が視覚効果賞を受賞したんだけど、視覚効果(以降はVFXと表記)を担当した名門会社リズム&ヒューズ・スタジオは映画の公開後の2013年2月に倒産。アカデミー賞を受賞する11日前に会社が倒産してしまったのだ。とんでもない悲劇である。そして大きな社会問題となった。
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 (字幕版)

撮影のやり直し

倒産の原因として、ライフ・オブ・パイのVFXのリテイクが延々と続いたということがある。CINEMOREがこの問題を詳しく取り上げているので画像で引用する。
cinemore.jp



「R&H」は倒産したリズム&ヒューズのこと。

ハリウッドは撮影の大掛かりなリテイクがたくさんある。昔だと主演をクビにして撮り直した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や、ここ数年だと監督をクビにして7割を撮り直した『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』なんか有名だろう。予算とスケジュールがカツカツの日本映画では俳優が不祥事起こさない限りリテイクはほぼ無い。リテイクするくらいならお蔵入りさせる。でも日本は顧客絶対主義が強いので仕様変更の皺寄せ話は他人事ではない。

社会問題化(ただし10年前)

ハリウッドで視覚効果のリテイクは気軽に行われるという悪習がある。リテイクの皺寄せは現場スタッフに来てしまう。しかも受注が入札方式で仕様変更時の追加予算が請求できない。そのため現場が疲弊し、VFXの会社が次々に倒産することが社会問題になったのが10年前だ*1。その頃に潰れた会社には『タイタニック』を作り上げてアカデミー視覚効果賞を受賞したデジタル・ドメイン社もある*2

この社会問題は改善されずに今は益々悪化している。アメコミ映画ブームのせいだ。アメコミ映画が大流行しているので、VFXの負担が激増。さらにアメコミ映画は撮り直しが多いのもこの問題に拍車をかけた。記事多数なので興味ある方は調べてほしい。正義を体現するアメコミ映画が全然正義じゃない現状が分かって面白い。アメコミ映画は良くも悪くも資本主義の象徴なので問題点もたくさんあるのだ。

監督=VFXの素人

ハリウッドの素晴らしい慣習として「才能あるなら新人だろうが外国人だろうが監督として起用する」というのがある。アメコミ映画だと『エターナルズ』のクロエ・ジャオなんかが有名だろう。でもVFX問題についてはこれは悪しき要因となる。

  1. VFXのことを全然知らない人が監督になる
  2. 監督はVFXの苦労を知らずにリテイクさせ続ける

これが起きやすい。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の場合はアン・リー監督がリテイクを連発したらしい。私はアン・リー好きなので、これ知った時はショックだった。

この問題を取り上げたドキュメンタリー映画をギズモードが翻訳解説してくれているので画像で引用する。
www.gizmodo.jp


アカデミー賞の受賞式の悲劇

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』がアカデミー賞を受賞した時の話だ。

  • 受賞者が資金繰りの苦境を訴えたら、ジョーズのテーマが流れて邪魔された
  • 監督のアン・リーは映画の大半を作った視覚効果に何の謝辞も述べなかった

ということが問題になった。CINEMOREもギズモードもこの点を取り上げているので、画像引用する。


資金繰りの訴え中にジョーズのテーマが流れるシーン↓。
youtu.be

ゴジラ -1.0の希望

映画マニアたちが『ゴジラ -1.0』の視覚効果賞の受賞をベタ褒めしているけど、すごく良くわかる。映画マニアたちはアメコミ映画とVFXの不健全な関係に心を痛めていた。監督の山崎貴がVFX会社「白組」の所属でさらに元々はVFXの監督なので、「監督=VFXの素人」という図式が崩れてくれれば今後のハリウッドで良いことになるかもしれない?という希望があるのだ*3

*1:倒産が相次いだ最大の要因はグローバル化による受注金額の低下

*2:破産申請中に売却したので正確には倒産ではない

*3:以前から何度も書いているけど日本映画は低予算なので日本映画には皺寄せトラブルはたくさんあります