破壊屋ブログ

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eスポーツの殺人ミステリー『ゲームオーバー』

ここ数年、ずっとハマっていたニューヨーク版シャーロック・ホームズの『エレメンタリー』が無事最終回を迎えた。せっかくなので私が全エピソードの中でも一番好きなエピソード『ゲームオーバー』をネタバレ紹介する。eスポーツの殺人ミステリーなのだ。

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↑英語だともっと酷くて「(eスポーツの選手は)汗臭いグズのオタク」と言っている。ただしこれは逆張りの伏線で、本編ではリチャード・ギアようなステキなeスポーツ選手が出てくるというお話。

実況中の殺人

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ある日、NY在住の人気配信者がゲーム実況中に襲撃される事件が発生される。NY市警にはアメリカ全土から911以来最多の通報電話がかかってくるが、実況していた場所が分からないので探しようがない。しかしシャーロック・ホームズは実況動画の背景が紫色になっていることから、NYのネオンサインの種類と位置を特定し現場を探し当てる。そして実況者が拷問されて殺されているのを発見する。凶器は巨大な園芸用品らしい。何じゃそりゃ。

eスポーツの天才:テンドゥ

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被害者はeスポーツ選手としては伸びしろが無かったので、有名なeスポーツ選手のエージェント業に手を出していた。警察は
「テレビゲームのプロ?」
と懐疑的だが、ワトソンは
「eスポーツはメジャーだし、高額賞金の大会もある」
と解説する。賞金絡みの犯罪かと思いきや、被害者はエージェント業でトラブルがあった。被害者はテンドゥと呼ばれるカナダの有名プレイヤーを引き抜こうとして、テンドゥが所属するチームと揉めていたのだ。このチームオーナーが第一の容疑者だ。

オタク男子とセクシー女子

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ホームズが揉めていたというテンドゥのチームの寮を訪問すると、美女たちがeスポーツの選手たちを付き添いしているという珍妙な光景があった。
ホームズが
「テンドゥを引き抜きかれそうになって被害者と揉めていたよな?」
と詰問すると、チームのオーナーは
「俺はテンドゥの引き抜きを阻止したんだから、殺す必要は無い。あれ?そういえばテンドゥが出勤してこない、あいつエスキモーなんだよ」
と言う。

凶器はイヌイットの道具だった

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ホームズたちはテンドゥの部屋を調べるが、テンドゥは逃走していた。しかも謎の女性と一緒に逃げている。テンドゥの部屋から殺人の凶器であるハカピックが出てくる。園芸用品だと思われた凶器はハカピックだったのだ。ハカピックはイヌイットがアザラシ漁に使う道具でテンドゥの指紋もついている。ハカピックの鉤を使って被害者を殺したのだ。警察はテンドゥが犯人では?と疑う。

テンドゥはなぜ狙われている

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だがホームズはテンドゥ犯人説を否定する。ハカピックの鉤は手繰り寄せのために使うものであり、殺すときはハンマー部分を使う。イヌイットが人を殺すときはハンマー部分を使うはずだと。←この推理はどうかと思うが、ホームズはテンドゥが暗殺者に狙われている証拠を次々に見つける。暗殺者の目的はテンドゥであり、テンドゥの居場所を知るためにエージェントを拷問した。だがテンドゥに逃げられると、今度はテンドゥの道具を使って被害者を殺して殺人容疑を被せようとしたのだ。

SNSの写真が原因だった

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単なるeスポーツ選手にすぎないテンドゥは一体何をやらかしたのか?そして暗殺者を雇った黒幕は誰なのか?ホームズとワトソンはテンドゥのSNSを調べて、テンドゥがジャーキー食っている写真を見つける。これが動機だったのだ。

過激な動物愛護運動

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警察は過激な動物愛護運動家レイナを事情聴取に呼ぶことにした。左が第二容疑者のレイナで右が弁護士。
世間はイヌイットたちのアザラシ漁を野蛮だと攻撃していたが、テンドゥはあえてアザラシの毛皮をまといアザラシのジャーキーをかじる写真をアピールし、自分たちの文化を主張した。アザラシ漁をバッシングしていたセレブたちもテンドゥに同調した。その結果、動物愛護運動家たちは恥を掻き、セレブからの寄付金も大幅に減ったのだ。怒ったレイナはアザラシを守るためにイヌイット差別者となってテンドゥのSNS
「アザラシじゃなくて、おまえらを絶滅させてやる」
と荒らしまくっていた。レイナの弁護士は必死にレイナを擁護するが、レイナは意外な事実を語る。実はレイナは個人的にテンドゥと会って弁護士抜きで勝手に和解に応じたのだ。レイナは犯人ではない。

オタクに恋は難しい

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捜査は振り出しに戻るが、ホームズはテンドゥと一緒に逃げている女性の名前が「リベナ」だと知って驚く。「リベナ」とはチェコ人の名前で、チームにいたセクシー女性もチェコ人だった。ホームズはチームにいた女性たちがチームオーナーが雇った娼婦であったことを見抜く。彼女たちは娼婦であることを隠しeスポーツ選手を応援するフリしてエロエロな雰囲気に持っていくことで、他チームへの引き抜きを防止していたのだ。ジャンルでう言うところの「オタクに優しいギャルビッチ」ですな。

トゥルー・ロマンス

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だが娼婦のリベナがテンドゥとガチ恋。テンドゥはリベナを解放するために売春斡旋の店と対決しようとしていたのだ。ホームズはあっという間に売春斡旋の偽装工作を見抜いて、店長を探し当てる。


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↑悪質な売春斡旋業者の手口であり、日本企業のことではありません。っていうか世界共通の手口。

プリティ・ウーマン

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第三の容疑者は売春斡旋の店長だ(左の女性)。だが店長は意外なことを語りだす。テンドゥはリチャード・ギアで、リベナはジュリア・ロバーツ彼らは『プリティ・ウーマン』のようだと。
どういうことか?テンドゥは『プリティ・ウーマン』のリチャード・ギアのような大金持ちで、リベナの借金を現金で一括返済したのだ。店長がテンドゥを殺す動機は無い。それよりもテンドゥは何故そんな大金を持っているのか?

スーパーナイスガイ:テンドゥ

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ワトソンはテンドゥの持っているゲーミングヘッドセットが発売されていない高級品だと気づく。販売している中国の会社に問い合わせると(ワトソンは中国系の女性)、その会社はテンドゥの個人スポンサーだった。個人スポンサーを得て大金持ちになったテンドゥは、借金漬けの娼婦を助け、故郷のイヌイットの村に経済支援するナイスガイだったのだ。

暗殺者を逮捕する

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ホームズはテンドゥの潜伏先が娼婦の待機所だと見抜き、そこに行く。そうしたら犯人の暗殺者も登場したので逮捕する。テンドゥとリベナは無事に警察に保護された。
暗殺者は弁護士事務所の汚れ仕事を専門に引き受ける男だった。ホームズは暗殺者を問い詰めて雇い主の正体、つまり事件の黒幕を知るのだった。

地球温暖化のせい

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黒幕は動物愛護運動家の弁護士だったのだ。ホームズは、その長い長い動機を語る。全ては地球温暖化から始まったのだ。

  1. 地球温暖化によって氷が解けて、今まで船が通れなかったカナダ北部にも航路が出来る。
  2. 運航業者はカナダ北部に港を作るため、イヌイットの村の地上げを計画する。
  3. 運航業者は土地買収用の弁護士(黒幕の女性)を雇う。成功すれば数百万ドルの年俸生活となる。
  4. 弁護士はイヌイットの村を経済的に困窮させようとする。
  5. 弁護士は動物愛護運動に協力してアザラシ漁を奪おうとする。
  6. だがテンドゥがあえてアザラシ漁をSNSでアピールすることで、動物愛護運動は失敗する。
  7. さらにテンドゥはスポンサーの契約金を使って故郷への経済支援も始める。
  8. テンドゥが邪魔になった弁護士は暗殺者を雇うが失敗する。

こうして弁護士は逮捕されたのだった。完。

解説

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タイトルの意味

原題は『Rekt in Real Life(現実でフルボッコ)』で、おそらく同じゲームネタが満載のアニメ映画『Wreck-It Ralph(シュガーラッシュ)』のパロディだろう。

バタフライ効果

『エレメンタリー』は複数の動機が絡み合うパターンが多く、本作はその最高峰。動画実況から始まり、ゲーム業、エージェント業、スポンサー問題、動物愛護運動、SNS炎上、恋愛、売春組織と話が拡散し続けて最終的には「地球温暖化が原因だった」という無駄な壮大さが楽しい。ホームズはこれを「逆バタフライ効果」と呼んでいた。

補足

分かりやすく解説するために説明は一部不正確だ。とくにテンドゥは故郷を経済支援したというよりも故郷を政治的に買収したという観点のほうが強い。

  • 伝統を復権しようとする若者(テンドゥ)
  • 伝統を捨てて新しい生活に移行しようとする老人たち

という対立構造も面白い。

イヌイットについて

日本版は字幕・吹替ともに「イヌイット」で統一されているけど、英語では「エスキモー」と「イヌイット」が使い分けられており、容疑者候補たちは「エスキモー」と言う。「配慮ができないヤツは悪人」という意識を逆手に取った見事なミスリードだ。ただ調べてみると「イヌイットのほうが不適切なので、エスキモーを使うべきでは?」という議論もあり難しい問題だ。言葉狩りで解決する問題ではない
アザラシ漁問題も調べてみたけど、あまりにも壮大すぎるのでここでは言及できない。でもかなり面白いです。セレブによるカナダバッシングとか。

人種配置

アメリカの映画やドラマは人種によって役割が固定化されているけど、本作はその傾向が特に強い。ゲームチームのオーナーはアジア系、娼婦は東欧系、マフィアはイタリア系、悪人は白人、さらにサイドストーリーでは黒人ギャングの話も展開する。
娼婦と恋に落ちたタフガイが、娼婦を助ける物語。というのはアメリカ映画の定番キャラクターだけど、それがタフガイじゃなくてゲームオタクのイヌイットだというのは斬新で良い設定だ。