今年もまた組織票ネタです。
まず大前提として、私はファンたちの自発的な組織票を好意的に捉えている人間です。これは組織票を批判するエントリではありません。
映画『Gメン』の快進撃
「キネ旬読者ベスト」で1位が映画『Gメン』になりました。ついでに言うと読者選出の監督賞も受賞、さらに日刊スポーツ映画大賞の「ファンが選ぶ最高作品賞」も『Gメン』が受賞しました。『Gメン』は元キンプリ(Number_i)の岸優太が主演する映画です。
キネ旬読者ベストとは
映画雑誌の老舗である「キネマ旬報」が実施している映画賞があって、これは世界最古の映画賞です。キネマ旬報ベストでは読者からも投票を募って「キネ旬読者ベスト」として発表しています。日刊スポーツ映画大賞の「ファンが選ぶ最高作品賞」も同じく一般投票です。
不審点
キネ旬の読者は相当な映画ファンなので「キネ旬読者ベスト」は大衆性と芸術性をちょうど良いバランスで持っている素晴らしい映画賞です(本家のキネ旬ベストだと大衆性が無い)。ただ人気男性タレントが出る映画が不自然に得票を集める現象は以前から指摘され続けていました。これは「キネ旬読者ベスト」に限らず、一般投票を導入しているあらゆる映画賞で発生しています。
この件については、映画ジャーナリストの斉藤博昭氏が詳しく解説しています。
この記事を要約すると「映画評論家が一票も入れていない映画が、一般投票の映画賞では一位になっている」ということを指摘しています。
news.yahoo.co.jp
この分析記事は完璧だと思いますが、もし
「映画評論家と映画ファンが選ぶ映画は違う」
と反論されたら再反論は難しい。
比較
ということで今回は映画ファンが選んだランキングと『Gメン』を比較してみます。比較対象に使うのはX(Twitter)上の投票を集計した有効投票数4457人の映画ベスト100(以降は「Web投票」と表記)のデータです。また表示されている順位は全て邦画限定です。
↓これが比較結果です。
映画のタイトル | 怪物 | ゴジラ-1.0 | 福田村事件 | Gメン |
---|---|---|---|---|
Web投票の順位 | 1位 | 2位 | 12位 | 101位 |
Web投票の投票人数 | 1173人 | 826人 | 359人 | 18人 |
キネ旬読者ベストの順位 | 4位 | 3位 | 2位 | 1位 |
Web投票だと18人しか投票していない『Gメン』が、1000人以上が投票した『ゴジラ-1.0』に逆転勝ちしています。そもそもWeb投票で『Gメン』より順位が高い邦画が100本もあるのに、それらを全てゴボウ抜きして「キネ旬読者ベスト」を受賞したことになります。
検証データ
Web投票の日本映画TOP75を載せます。
- 1位:ゴジラ-1.0
- 2位:怪物
- 3位:BLUE GIANT
- 4位:鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
- 5位:グリッドマン ユニバース
- 6位:PERFECT DAYS
- 7位:窓ぎわのトットちゃん
- 8位:君たちはどう生きるか
- 9位:シン・仮面ライダー
- 10位:首
- 11位:ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー
- 12位:福田村事件
- 13位:リバー、流れないでよ
- 14位:市子
- 15位:正欲
- 16位:名探偵コナン 黒鉄の魚影
- 17位:少女は卒業しない
- 18位:エゴイスト
- 19位:愛にイナズマ
- 20位:キリエのうた
- 21位:THE FIRST SLAM DUNK
- 22位:映画 プリキュアオールスターズF
- 23位:アリスとテレスのまぼろし工場
- 24位:SAND LAND
- 25位:ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい
- 26位:Winny
- 27位:最後まで行く
- 28位:月
- 29位:アンダーカレント
- 30位:北極百貨店のコンシェルジュさん
- 31位:ほつれる
- 32位:戦慄怪奇ワールド コワすぎ!
- 33位:ガールズ & パンツァー 最終章 第4話
- 34位:BAD LANDS バッド・ランズ
- 35位:岸辺露伴ルーヴルへ行く
- 36位:世界の終わりから
- 37位:ミンナのウタ
- 38位:金の国 水の国
- 39位:ケイコ 目を澄ませて
- 40位:劇場版 Psycho-Pass サイコパス Providence
- 41位:ロストケア
- 42位:ちひろさん
- 43位:仕掛人・藤枝梅安
- 44位:駒田蒸留所へようこそ
- 45位:翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~
- 46位:ミステリと言う勿れ
- 47位:春に散る
- 48位:キングダム 運命の炎
- 49位:銀平町シネマブルース
- 50位:劇場版ポールプリンセス!!
- 51位:屋根裏のラジャー
- 52位:君は放課後インソムニア
- 53位:波紋
- 54位:ほかげ
- 55位:かがみの孤城
- 56位:わたしの見ている世界が全て
- 57位:658km、陽子の旅
- 58位:わたしの幸せな結婚
- 59位:アイカツ! 10th Story ~未来へのStarway~
- 60位:劇場版TOKYO MER ~走る緊急救命室~
- 61位:映画すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ
- 62位:そばかす
- 63位:まなみ100%
- 64位:リゾートバイト
- 65位:映画ドラえもん のび太と空の理想郷
- 66位:劇場版 SPY×FAMILY CODE: White
- 67位:せかいのおきく
- 68位:遠いところ
- 69位:1秒先の彼
- 70位:春画先生
- 71位:白鍵と黒鍵の間に
- 72位:先生!口裂け女です!
- 73位:Single8
- 74位:スクロール
- 75位:推しが武道館いってくれたら死ぬ
ここでハッキリ言いますが、『Gメン』が各映画賞で一位を取ったのは明らかに異変です。正当な映画の評価とは大きくかけ離れています。
「組織票」という言葉
今まで何度もあったけど「組織票」を使って映画賞を狙っている人たちは「組織票」という言葉への拒否感が強いです。今年だと『Gメン』ファンたちが「これは組織票ではない」と訴えています。実際、投票を広く呼びかけたわけでも無いので組織票扱いするのは酷かもしれない(本来の組織票はコッソリやるものだけど)。便宜上、私は今後も「組織票」という言葉を使うけど、これはもう組織票というよりも推し活の一環だと思ってます。
今まで何度も書いてきたけど、このような組織票には意味があると思います。『Gメン』で言えば、日本映画で絶大な力を発揮していたジャニーズが関わった映画としては最終作と言っても良い作品です(他にもあるけど)。嵐の後継者と呼ばれながらも空中分解してしまったキンプリメンバー岸の最初の主演作でもあります(『Gメン』は岸のジャニーズ退所一ヶ月前に公開)。この作品が1位を取るのはファン投票としては正しい形だと思っています。
映画の内容の評価とは違う形で映画賞の受賞作が決まることについては、これはもう主催者側の判断に任せるべきです。
映画『Gメン』について
日本映画界に大量に現れる(アメコミ映画並に多い)ことになったイケメン俳優たちの不良ケンカ映画です。私は小沢としおの原作漫画『Gメン』が大好きですが、主演の岸は小沢としお漫画の主人公たち(うるさい、ケンカ強い、頭悪い、友情を大切にするけど軽い、女好きだけどモテない、スケベだけど純情)に驚くほど似ています。
ギャグとアクションの連発な上に他の不良映画よりも「軽さ」を重視していて楽しいです。日本映画はギャグが少ないので『Gメン』のギャグの多さは嬉しいです。原作再現率も高いですが女性観客が感情移入しやすいように、女性視点を多めにしたのは良い原作改変です。
その一方で日本映画の悪習と言っても良い、ただひたすら感情を剥き出しにして大声で叫ぶシーンが何度も繰り返されます。これを「勢いがある」と思うか「ウザい」と思うかは人によりますが、俳優ファン以外にはちょっと厳しいかもしれません。
『Gメン』よりも凄い組織票
追伸。2023年最大級の組織票は『Gメン』ではありません。『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』です。東京アニメアワードフェスティバルのアニメファン賞で30902票も集めて一位になりました(注:TAAFは今年から多重投票を禁止しています)。Web投票だと有効投票数4457人中たった3人しか投票してません。つまり三万人差です。『Gメン』の千人差が可愛く見えます。