パトレイバーの実写企画、エピソード1を観た。俺は満足だったけれど、パトレイバーを知らない人が観たら戸惑ってしまう内容だった。つまり実にパトレイバーらしい作品ということだ。だからパトレイバー初心者が実写版をケナしていたら俺が攻撃してやる。
「知識不足のくせに批判するのってみっともないですよ」
「あなたはテーマや世界観を理解しているのですか?」
「あなたにパトレイバーを語る資格はありません」
とか書き込んでオマエに粘着してやる!と思ったが、よく考えればそれはドラマの劇場版を観に行った俺が、うざいファンにネット上で絡まれたときに言われた言葉だ。やめておこう。攻撃の逆ということで、初心者が実写版パトレイバーを観た時に疑問に思いそうな点をまとめてみた。以下ですます調。
ポイント1:なぜオスプレイや中国が出てくるの?政治的なメッセージがあるの?
基本的にパトレイバーはどんな政治思想の人間でも楽しめる作品です。オスプレイは兵器マニア向けのネタで、中国ネタは単なる共産圏ギャグです。
パトレイバーに出てくる思想と結びつきそうなネタを深刻に捉える必要はありませんが、俺個人の意見を言わせてもらえば「戦争は人類の文化だ!」という押井守監督の主張にはまったく同意できません(←深刻に捉えている人)。
ポイント2:何で整備班が空手やっているの?
総監督の押井守が空手にハマっているからです。押井守作品は押井守の趣味が強烈に押し出されるので、ファンとしてはそこが嬉しくもあり、困るところでもあり、空手は観てて困ったところだなぁ。ただ予告編を観る限りは、空手は今後の伏線になっているっぽいです。
他にも集団でゴハン食べたりするのも押井守テイストで、これを実写化してくれたのは嬉しいところ。
ポイント3:シゲさんは何であんな偉そうなの?
シゲさんの役職は整備班班長ですが、パトレイバーの世界において整備班班長は独裁者にも近い権限を持っているので、あんな態度を取っているのです。
アニメ版では整備班が独裁側やレジスタンス側に分裂していく事件:通称『火の七日間』まで起きています。左がシゲさんで、右がアニメ版の整備班班長。
ポイント4:そもそもシゲさんって何者なの?
『パトレイバー』に出てくるキャラクターでシバシゲオ(シゲさん)という人がいます。シゲさんの声優は千葉繁という人で、彼は実写版では俳優としてシバシゲオを演じています。さらに言うとシバシゲオは千葉繁をモデルにしたキャラクターです。つまり千葉繁=シバシゲオは完全一致しているので、実物大レイバー以上に実写パトレイバーの象徴たる存在なのです。
俺は公開初日の舞台挨拶で千葉繁(顔も声もシバシゲオ)が「(パトレイバーの世界が)戻ってきたぞ!」と挨拶したときに胸が熱くなりました。
朝の歯磨きをする実写シゲさん。劇場版パトレイバー2ではこの直後に特車二課は壊滅しますが。
ポイント5:キャリアってなに?トランスポーターってなに?
キャリアがレイバーを運ぶ大型トラック、トランスポーターがレイバーを載せる装置です。こういう専門用語の説明を一切しないあたりが、パトレイバーファンの知的好奇心を刺激してくれる要素であり、かつオタクな作り手の悪い癖でもあります。
ポイント6:カーシャのモデルガンはなぜリアルなの?
カーシャが持っているのはモデルガンじゃなくて密輸した実銃だからです。
カーシャの元ネタキャラクターの香貫花クランシーは、公衆浴場にまで実銃を持ち込んでました。別のエピソードでは巨大ガトリングガンを米軍から入手します。
ポイント7:ひろちゃんというキャラクターが出るたびにニワトリが鳴くのはなぜ?
これは最近の日本映画に多い「キャラクターが登場するたんびに効果音が鳴る」ですね。効果音がニワトリなのはひろちゃんがニワトリの世話をしているからです。パトレイバーにとってニワトリは重要な要素です。主人公たちの勤務地:特車二課はコンビニから遠い上に何日も寝泊まりします。そのためにニワトリが産む卵は特車二課の重要な栄養源なのです。
劇場版パトレイバー2でニワトリを解放するシーンは特車二課の壊滅を象徴する悲しいシーンでもあります。
実写版の「ひろみ」こと「ひろちゃん」。パトレイバーの中でももっとも存在感の無いキャラクターだけど、アーリーデイズでは東京核攻撃を直接的に防いだ男である。
ポイント8:何でみんな草刈りしているの?
主人公たちの勤務地である特車二課がある場所は捨てられた土地なので荒れ放題です。そのために草を刈って土地を整備するのです。特車二課の勤務は泊まり込みが多いので、特車二課は勤務地というより住居という側面もあります。
キャリア組のエリートが草刈りやらされるシーン。
ポイント9:飲酒ネタが多くない?
時代の移り変わりというか、25年前のパトレイバーは勤務中の飲酒はおろか飲酒運転までやってました。今回の実写版はこれでも飲酒ネタが減っていて、元の台本だとビール飲むシーンが実際には牛乳になってます。
ポイント10:先代の隊長の爆弾ってなに?
爆弾の内容はわかりません。先代の隊長とはパトレイバーの裏主人公と呼ばれる後藤隊長です。後藤隊長は超キレ者、かつあらゆる責任を上層部になすりつけるのが得意なので「先代の隊長の爆弾」とは警察の幹部連中を脅迫するネタだというのは容易に想像がつきます。
先代の隊長である後藤隊長が上司に辞表を出すように提案するシーン。アニメ版だと後藤隊長のせいでクビになった上司が復讐に来るエピソードもある。
実写版エピソード1はアニメ版の『こちら特車二課』と『あんたの勝ち!』の合成エピソードです。この2つのアニメエピソードは両方共押井守が脚本を書いています。
『こちら特車二課』は傑作エピソードで、初めて特車二課に務めることになったヒロインの泉野明の視点で特車二課の日常を描きます。つまり視聴者と泉野明の視点が一致しているので、特車二課の異常な日常に驚く泉野明に感情移入しやすい。
ところが実写版エピソード1では泉野明は特車二課に慣れてダレまくっているという設定なので、視聴者は感情移入が難しくてちょっと戸惑ってしまうんですね。
でもダレている泉野明を真野恵里菜が上手く演じているのは良かったです。
実写版エピソード2以降はオリジナルエピソードらしく、旧来のパトレイバーファンにも見慣れない新要素が満載のはずなので今から楽しみです。
WebマガジンのCakesでパトレイバーに関する短期集中連載を書いていました。こちらで読めます。