破壊屋ブログ

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映画『ナポレオン』の補足説明

ナポレオンのタイトルまとめ

『ナポレオン』という作品が多すぎる上に改題も多いので、今後の私の人生では下記のように表現します。

  • 『ナポレオン -獅子の時代-』『ナポレオン -覇道進撃-』→長谷川ナポレオン
  • 『エロイカ』『栄光のナポレオン-エロイカ』→池田ナポレオン
  • 2023年の映画『ナポレオン』→リドスコナポレオン


今回はリドスコナポレオンの補足説明です。

黒人の将軍は三銃士の父親

「もしかして」と思ってX検索しましたが、いるわいるわ。黒人の将軍がポリコレ的配慮だと思い込んでいる人たちが↓


黒人の将軍はハイチ出身のデュマ将軍です。エジプト遠征に参加していたので、映画に出さないほうが不自然です。*1

日本ではデュマ将軍の息子が書いた小説『三銃士』や『巌窟王(モンテ・クリスト伯)』が有名でしょう。ちなみに画像のようなツイートへの批判で「デュマ将軍を知らないなんて、これだから日本人は…」みたいのも複数ありましたが、デュマ将軍をポリコレ配慮だと思い込む現象は海外でも起きています

デュマ将軍を知らないのはしょうがないと思う。ただ黒人を見ると「ポリコレ!」と反応するのは、控えたほうがいいです。

ショタ美少年はその後も登場している

映画の序盤でナポレオンに「父のサーベルを返してください」と訴えるジョゼフィーヌの息子の美少年。サーベルの返却のお礼をきっかけにジョゼフィーヌとナポレオンが急接近する史実です。あの少年はウジェーヌという名前で、劇中では青年となってその後も登場し続けています。ジョゼフィーヌが登場するシーンで、若い男性と女性がセットで登場しますが、男性がウジェーヌ(ジョゼフィーヌの息子)で女性がオルタンス(ジョゼフィーヌの娘)です。ジョゼフィーヌがナポレオンと結婚したことにより、ウジェーヌはナポレオンの養子になります。
史実ではエジプト遠征からロシア遠征まで参加するバリバリの軍人です。またウジェーヌの血筋はノルウェー、スウェーデン、デンマーク、ギリシャの各王家の先祖です。

ラストシーンのワインに蝿がいる意味

あれは比喩的な表現ではなくて(たぶん)、ナポレオンがセントヘレナ島で腐ったワインを飲まされていたという史実です。画面的に「腐ったワイン」を表現するのが難しいので、蝿を使って表現したのだと思います。

拳銃自殺に失敗するのはロベスピエール

映画の序盤で拳銃自殺に失敗するのはロベスピエールです。ロベスピエールはフランス革命後に権力を握り、恐怖政治(テルール)で大量の死刑を実行。「テロ」の語源となりました。フランス史的には超重要人物なのですが、ナポレオンとロベスピエールは一度も会ってないので、ナポレオンを描くときにロベスピエールを出すかどうかは判断が分かれるところです。
長谷川ナポレオンではロベスピエールは重要人物ですが、池田ナポレオンではほぼ出てきません。リドスコナポレオンがロベスピエールを出したのは意外でした。逆にリドスコナポレオンはフーシェの出番がほぼありません。

序盤の謎の女性の正体はジョゼフィーヌ

ロベスピエールが死んだあとに監獄から人々が解放されるシーン。一人だけ顔が見えない謎の女性がいますが、おそらくジョゼフィーヌです。なぜ顔を隠す演出にしたのかは不明です。
史実ではジョゼフィーヌは恐怖政治によって投獄されており死刑寸前でしたが、監獄の中でも男性と恋愛関係になっていました。

浮気を勧めるのはナポレオンの母親

ジョゼフィーヌに子供が出来ないため、ナポレオンに浮気相手をあてがうのはナポレオンの母親です。史実ではナポレオンの妹が浮気相手を調達しましたが、登場人物を減らして話をシンプルにするための良い改変です。

戴冠式で絵を描いているのはダヴィッド

戴冠式で絵を描いているのはジャック=ルイ・ダヴィッドです。有名な絵も多いです。

年金は支払われてない

退位したナポレオンが年金について説明されるシーンがあります。が、史実ではこの年金は支払われませんでした。そのため資金難(兵士の給料やエルバ島の開発資金が足りなくなった)に陥ったことが、ナポレオンの帰還の大きな原因です。

太った王様はルイ18世

後半で太った王様が出てきますが、これが退位したナポレオンに代わってフランスの王となったルイ18世です。フランス革命で王政を打倒したのにルイ18世が復活してしまったことでパリ市民が怒り、これもナポレオンの帰還の要因となります。

おまけ:AIナポレオン

AIで女性のナポレオンを生成してみました。
ナポレオンは女性だった!ジョゼフィーヌと子供が出来なかったのは女性だから。背が低くて渾名が小伍長だったのは女性だから。喋り方が変だったのは女声を隠すため。というフィクションがあったら、史実と違っても余裕で受け入れますよね。

*1:ナポレオンの戴冠式に出ていた黒人のほうが謎で(戴冠式の時はデュマは失脚していた)、そっちは議論になっている

映画『ナポレオン』の批判ポイント

現在公開中の映画『ナポレオン』はフランスで「これは違う!」と大批判を浴びていて、リドリー・スコット監督が辛辣な言葉で反撃しているのが話題になっています。私自身は
「娯楽作品は事実を捏造しても構わない」
という危ない考え方の持ち主ですが、この映画『ナポレオン』に批判が発生する理由もちょっと分かります。というわけで映画『ナポレオン』の批判内容を解説します。


戦争シーン

戦争シーンが第一次世界大戦っぽい

歩兵の動きは第一次世界大戦っぽく、乱戦の描き方は逆に中世っぽく、随分とちぐはぐな戦争シーンらしいです。私はあまり気になりませんでしたが。フランスでは
「1815年と1915年を間違えているのでは?」
という皮肉な批判をされています。映画の作り手たちが戦争シーンにこだわった割には、ナポレオン戦争の再現がおざなりになっているのが批判要素となっています。

機動を描いていない

大陸軍(ナポレオンの軍隊)が常勝無敗の最強の軍隊だった理由は機動です。迅速な機動とそれを可能にした軍団構成こそがナポレオンの強みでした。ところが映画はこの要素を無視して大砲のみを描いています。

湖の罠は無かった

ナポレオンの最も名高い戦争である『アウステルリッツの戦い』です↓。予告編でもハイライトとして使われていましたね。

敵を凍った湖に誘い出して氷を割って溺れさせる!でもこのシーンは予告編の時点から私は「うーん」という感じでした。現代の研究では、フランスの勝利が決まった後に湖の上を逃げる敗残兵を数十人溺れさせた、というのが定説です(当時のナポレオンは戦果を印象付けるために「2万人を湖で溺死させた」と広報した)。
湖を砲撃して溺れさせるというのは画面的に面白いシーンなので、映画で再現したのはすごく良いです。しかし敵軍が凍った湖をわざわざ進撃して溺れる展開はちょっとバカバカしすぎます。またアウステルリッツの戦いは『戦争芸術の粋』とまで呼ばれるほど見事な作戦勝ちでした。フランス軍が不利な状態でもナポレオンが最高の作戦を生み出して勝利したのです。映画がそこをスルーているのはちょっと残念でしたね。例えば外国映画が「関ヶ原の戦いを再現した!」と言いながら落ち武者狩りの場面しか再現していなかったら、そりゃ批判されるでしょう。

どうしてこういう映画になったのか?

これは私の推測ですが、おそらくリドリー・スコットは
「ナポレオンは長年に渡って大砲を使って人を殺しまくったが、最後は失脚して自分の力で突撃した」
という構成にしたんだと思います。というか、そういう構成の映画です。物語的には意味があるような構成ですが、歴史的事実から見れば「?」としか言いようがない。ナポレオンが突撃していたのは若い頃です。逆に年取って総大将になったナポレオンが突撃なんてあり得ない描写です。映画は若い頃の突撃を描かずに、総大将になってから突撃するのでヘンテコな構成になってます。

ジョゼフィーヌの役割がおかしい

ジョゼフィーヌに政治的役割が無い

映画が「ナポレオンの妻であるジョゼフィーヌに焦点を当てた!」と言ってる割にはジョゼフィーヌの役割が恋愛のみになっているのが批判されています。ジョゼフィーヌは当時の社交界の花形であり、人脈の無い田舎者だったナポレオンが成り上がって行くのに重要な役割を果たしました。が、映画ではバッサリと無視されています。ただこれはしょうがないと思います。当時の社交界の人間関係やジョゼフィーヌの愛人関係を映画で描くのは難しいでしょう*1
ちなみにナポレオンとジョゼフィーヌの恋愛を徹底して描いた池田理代子の『エロイカ』は傑作です。ジョゼフィーヌがナポレオンの情熱的な恋を無視して浮気三昧する話です。それがナポレオンの激動の人生と共に力関係が逆転していく。

エジプトからの帰還の理由

エジプトから帰還した理由が「ジョゼフィーヌに会うため」って、これはかなり批判されてます。実際はフランスが外国から攻め込まれている状態を解決するための帰国でした。

エルバ島からの脱出の理由

エルバ島から脱出した理由が「ジョゼフィーヌに会うため」って超批判されてます。私も映画館で笑っちゃいました。実際はナポレオンがエルバ島にいる時にジョゼフィーヌは死んでしまい、ナポレオンはそれを新聞で知ります。映画では辻褄合わせのためにジョゼフィーヌが死んだ年まで変更します。そりゃ皇后が亡くなった日を変更したら怒られるよ。
いや変更はやっても良いんですよ。例えばナポレオン漫画の最高峰である『ナポレオン -覇道進撃-』では、エルバ島を脱出する理由が
「息子に会うため」
になっています。ただその一方で、『ナポレオン -覇道進撃-』ではブルボンの復活(パリ市民がブルボンの復活を嫌がったためナポレオンのエルバ島脱出の動機となった)や、ナポレオンがエルバ島での拉致・暗殺を恐れたこと、エルバ島で資金難に陥っていたこともきちんと描いています。嘘を描くためにはテクニックが必要なのです。

ナポレオンの功罪を描いていない

奴隷制の復活を描いていない

ナポレオン最大の愚行であるハイチの奴隷制の復活が描かれていません。これは現代でナポレオンを取り上げる時に必ず議論になる問題です。
現時点で映画がこれをスルーしたのは、私はしょうがないと思います。ただこれが批判ポイントになるのは我々日本人が
「オッペンハイマーを映画化するのに日本への原爆投下を描かないのはおかしい!」
と憤るのと同じ類のものです。

功績を描いていない

映画は戦争でしかナポレオンを描いていませんが、実際のナポレオンは近代国家の形成に貢献しました。フランス民法法典を始め、銀行や学校も整備しました。ここらへんの功績が一切描かれていません。

歴史的事実に反する

ナポレオンがマリー・アントワネットの処刑を見ている

いやぁ、これはやっちゃうよねー。フランス革命モノを作るときは「登場人物がマリー・アントワネットの処刑を目撃する」は絶対にやりたいシーンだよねぇ。とはいえ、実際のナポレオンはこの時「トゥーロン攻囲戦」に参加していました。トゥーロン攻囲戦はナポレオンの人生の中でも極めて重要な戦いなので、マリー・アントワネット処刑を観ていると大きな矛盾が発生してしまう。

ピラミッドに大砲をぶち込む

ナポレオンがピラミッドに大砲をぶち込むシーンも
「そんな事してねーよ!」
と批判されています。ナポレオンのエジプト遠征は学術調査の意味合いもあるので、ピラミッドに大砲をぶち込むのはありえません。ただナポレオンはヤッファ攻囲戦のように略奪と強姦でエジプトを蹂躙した側面もあるので、その凶暴性を表現する代替手段としては有りかも。

ナポレオンがジョゼフィーヌをぶつ

これは私も「?」となりました。ナポレオンとジョゼフィーヌの離婚の際にナポレオンがジョゼフィーヌを平手打ちするんですよね。実際の離婚式ではジョゼフィーヌがショックで立ち続けることが難しくオルタンス(ジョゼフィーヌの娘)に支えながら離婚式を続行しました。映画だとこれがナポレオンがジョゼフィーヌをぶつ演出になっています。

ホアキン・フェニックス

これはキャスティングの発表の時点で批判されましたね。ジョゼフィーヌはナポレオンよりも6歳年上だったのですが、ヴァネッサ・カービー(ジョゼフィーヌ)はホアキン・フェニックス(ナポレオン)よりも14歳年下です。ハリウッドが年配の男性俳優を優遇する一方で年配の女性俳優は軽んじている悪習は長年に渡って批判されています。本作はその悪習をやってしまった。

逆に褒められているシーン

「ヴァンデミエールの反乱」「皇帝を撃て!」のシーンはフランスでも高く評価されています。実際に素晴らしいシーンでした。

ヴァンデミエールの反乱

「ヴァンデミエールの反乱」は映画の序盤で、ナポレオンが大砲をぶっ放してパリ市民を殺すシーンです。当時としてはあり得ない行動で、この反乱の鎮圧でナポレオン人気は高まります(ナポレオンがフランス人ではなくてコルシカ人だからこそ出来たという説もある)。ナポレオンの残虐さと、その残虐さがナポレオンを英雄へと導くエピソードで、映画ではごまかさずにキッチリと表現しています。

皇帝を撃て!

「皇帝を撃て!」はナポレオンが敵の目の前に出て自分を撃つように促すことで、逆に敵を寝返らせ自軍に取り込むシーンです。ナポレオンが異常なほど高いカリスマ性を持っていたことを表現するエピソードであり、数多のナポレオンモノでも重要視されているシーンです。本作はその中でも屈指の名シーンです。

ナポレオンはとにかく壮大な人生を送ってきたので、何を描いても批判が来ます。本作は158分の映画にまとめるために取捨選択をした作品です。
ちなみに漫画『ナポレオン -覇道進撃-』は娯楽的表現が多いのですが、解説ページを設けることで「本当のナポレオンはこうでした」ということを説明しています。でもその解説ページの文章が10ページにもなっていたりします。ナポレオンはそれほど難しいのです。映画ではある程度ヘンテコな描写があるのは許容すべきです。ただナポレオンの人生をダイジェスト的に表現した本作で、事実と食い違う描写が多いのは批判の的になるかな、と思います。あと、正直つまらなかった…。

まあ誰もが納得する映画なんてありませんが、それが戦争映画となると殊更酷くなります。アメリカの第二次世界大戦映画はソ連を描かない傾向あるし、日本の戦争映画は天皇のことを描かない傾向あるし(なぜか敗戦後に希望を託す作品が多い)、韓国が作る朝鮮戦争映画は韓国軍が米軍に頼りまくっていたことは描かない傾向があります。

*1:本作は未公開の4時間半バージョンもあり、そちらはジョゼフィーヌのシーンが多いらしいですが、ジョゼフィーヌがナポレオンと出会う前がメイン

ケンカが弱い男のケンカ映画『フーリガン』

世界はW杯で盛り上がっていましたね。サッカーに興味の無い私ですが便乗して私が一番好きなサッカー映画を紹介します。2005年の英米合作映画『フーリガン』です。私は映画館で観て以来DVDで何度も繰り返し観ているほど好きな映画です。

アメリカとイギリスのカルチャーギャップ映画として面白いのです。内容は今からネタバレ解説しますが、不良漫画の『特攻の拓』と大体同じです。

エリートになれなかったアメリカ人の主人公

  • イライジャ・ウッド演じる主人公はハーバード大学の学生だったが、卒業を目前にして退学する。
  • 実はルームメイトの政治家一族のお坊ちゃんが学内でコカイン吸引していた。このスキャンダルから政治家一族を守るために無理やり身代わりにされたのだ。
  • 主人公は口止め料を貰うが、誰も自分を守ってくれないアメリカに絶望する。
  • 失意の主人公は、イギリス人と結婚した姉を頼って渡英することにした。

イギリス到着

  • ようやく到着したイギリスだが街中は荒れていた。
  • 主人公「テロ攻撃でもあったの?」
  • 姉「昨日、試合があったので…」
  • 主人公「サッカーの?」
  • 姉「大英帝国ではサッカーは禁句よ!」

フーリガンのリーダー、ピート登場

  • 姉の自宅に行った主人公は、初めて姉の夫(義兄)に合う。義兄はイケメンで優しくてお金も稼いでいるイギリス紳士だった。
  • だが義兄(画像左)の弟ピート(画像真ん中)が人間のクズだった。このピートがもう一人の主人公だ。
  • ピートはフーリガンで、酔っぱらいで、言葉遣いが暴力的で、義兄に金をたかりに来ていた。
  • ピートは「米国人なんか嫌だ」とあからさまに敵対的だ。時代は2005年、イラク戦争アメリカが誤爆でイギリス軍を殺したこともあって、反米感情が強い。

弱すぎる主人公

  • 義兄はピートに金を渡さずに主人公に金を渡す。
  • 主人公が姉や義兄と別れると、ピートは速攻で主人公をカツアゲする。
  • あっという間にカツアゲされる主人公を見てピートはアメリカ人の喧嘩の弱さにビックリ。可哀想なのでサッカーの試合に連れて行くことにした。

フーリガンと会う

人生初めてのケンカ

  • 生まれて初めて見るサッカーの生試合に主人公は大興奮する。
  • 主人公は一人で帰宅中に相手チームのフーリガンに襲撃される。
  • そこにピートたちが助けに現れる。ピートたちフーリガンは絶対に仲間を見捨てないからだ。
  • 主人公はピートたちの姿に感動する。ピートたちもケンカ弱いくせに根性のある主人公を認める。

伝説の少佐

  • ピートは主人公にフーリガン同士の抗争について説明する。
  • 主人公がアメリカの野球チームに例えると、ピートは「イスラエルパレスチナさ」と答える。そこまで過激なのだ。
  • アメリカ人の主人公は過激な抗争に驚くが、イギリス人であるピートから見ればアメリカの銃社会のほうが狂っている。
  • ピートがリーダーを務めるフーリガンGSE(Green Street Elite、映画の原題にもなっている)と呼ばれている。凶暴なフーリガンだが、他のフーリガン団体からは舐められている。
  • 何故ならかつてのGSEは「少佐」と呼ばれる伝説の男が率いていたのだが、引退してしまったのだ。
  • 「少佐」は史上最悪に凶暴な男で、敵フーリガンとの抗争では死者まで出した。

アメリカ人への洗礼

  • 普段のピートは少年サッカーのコーチで収入を得ていた。
  • ピートは野球好きのアメリカ人を「異教徒」とまで呼ぶ。
  • 主人公はGKとして少年サッカーに参加するが、小学生相手にボッコボコに負ける

主人公の機転

マスコミ嫌い

  • 主人公の姉が夫に「弟は大学で報道学を学んでいたのよ」と言うと、義兄の顔が青ざめる
  • 義兄は大急ぎでフーリガンの溜まり場に行き、主人公にフーリガンを辞めるように説得する。
  • 実はフーリガンたちは大のマスコミ嫌い。主人公が報道学を専攻していたと知ったら大騒ぎになるのだ。
  • 主人公は「退学したから関係ない」と反論するが、義兄は主人公をフーリガンの溜まり場から連れ出そうとする。

少佐の帰還

  • その時、フーリガンたちが一斉に「少佐が戻った!」と大喜びする。
  • 伝説の凶暴フーリガンの少佐とは、義兄だったのだ
  • 義兄は死者が出た抗争を強く悔やんでいて引退。主人公の姉と出会って結婚したのだった。

とんでもラスト

  • このあともフーリガン仲間の内紛や、敵フーリガンの事情、主人公家族の事情なども描かれるけど省略。フーリガン同士の抗争は過激化する一方だ。
  • 主人公は無理矢理アメリカに帰らされることになった。だがフーリガン同士の決戦があるため駆けつける。最後の戦いだ。
  • その最後の戦いでピートが殺される。みんなが悲しむのがイギリスでのラストシーン。
  • 暴力は不幸しか生まない!という結論にしか思えないが、主人公は「ピートの生き様に学んだ」「彼の生き方を汚しはしない」とか言い出す
  • アメリカに戻った主人公はピートのセリフ「Stand Your Ground(引かずに立ち向かう、続編のタイトルになった)」を胸に、自分を退学に追いやったハーバード大学の学友をブチのめしに行くのであった。完。

解説

  • クライマックスからラストはかなりのトンデモ展開だが、暴力を否定しつつ主人公の成長を描くにはコレしか無かったと思う。
  • アメリカ人の逞しい主人公が外国の文化に入り込み、そこで闘争に打ち勝ち、現地の女性と恋仲になり、最後はリーダーとなる!という所謂「白人酋長」と呼ばれるジャンルの映画があるが、本作は全然違う。
  • 主人公はケンカ弱いし、女性は全然出てこない。最後はリーダーになれずにアメリカに戻る。ケンカが弱い小柄な主人公が暴力集団で奮闘するというのは、アメリカよりも日本の不良漫画によくあるパターンだ。これが斬新で面白い映画だった。
  • 「女性は全然出てこない」と書いたが、実際はピートがヒロイン的存在だ。
  • 自国に絶望した主人公が、外国の保守的なコミュニティで受け入れられる。という本作のアイデアはいくらでも翻案できそうなので、本作はもっと注目されて欲しい。

監督について

  • 性コミュニティの悪いところを煮詰めたような映画ですが(劇中ではおしゃべりな女性を暴力で脅すシーンもあり)、監督のレクシー・アレクサンダーは女性。不適切な男性コミュニティを魅力的に描く手腕はお見事だ。
  • レクシー・アレクサンダーの経歴はかなり特殊で、松濤館空手の黒帯で、キックボクシングのヨーロッパ王者だ。10代でプロの格闘家としてアメリカに行く。そこでチャック・ノリスパトロンになる形(チャック・ノリスはそういう移民の支援をしている)でスタントウーマンとして活躍。そして映画監督になる。
  • 映画『フーリガン』を成功させたレクシー・アレクサンダーは映画界で話題となり、マーベルの『パニッシャー:ウォー・ゾーン』に大抜擢される。これはマーベル映画で初の女性監督だった。しかし『パニッシャー:ウォー・ゾーン』は失敗、彼女はマーベル側とも揉めた(女性監督へのギャラが安いことを批判するなど色々と暴露した)。その後は大作映画は撮っていない。現在では「マーベル映画で初の女性監督は2019年のアンナ・ボーデン」という事になってしまった。MCU前の話とはいえ、ちょっと酷い。
  • 最近マーベルのライバルのDCが連続して女性監督をクビにして「マーベルならちゃんとしている!」という意見を見かけたけど、マーベルにも失敗の歴史はあるのだ。

シリーズ化

  • 本作は3まで作られている。2ではほとんどのキャストが降板。敵フーリガンのリーダーが主人公になっているが、本作のラストの抗争で逮捕されたという設定で、2は刑務所映画になっている。

日本で○○捜査官!『ヘルドッグス』鑑賞前の雑知識

今回のエントリ、ネタバレはありませんが完全に知らない状態が良いという人はこれ以上読まないでください。

映画『ヘルドッグス』が9月16日に公開されますが、基本設定を知りたい人はまずは漫画版『ヘルドッグス』の第一話だけ読んでください。ちょっと驚くと思います。
comic-walker.com



というわけで『ヘルドッグス』は日本では珍しい潜入捜査官モノなんですね。今回はヘルドッグス周りの雑学ネタを書いていきます。

潜入捜査について

日本で潜入捜査ってあるの?

あります。詳細は『ハコヅメ 交番女子の逆襲』の奥岡島事件編を読んでください、ってマンガを例えに出すのはよくないですね。現実の潜入捜査で私が一番驚いたのは2014年の「駐日ガーナ大使の闇カジノ開帳事件」です。以前から都市伝説みたいな扱いだった大使館カジノですが、摘発されたのはこれが初でした*1
ガーナ大使の闇カジノには五人の警察官が客として潜入、二人の男性警察官は正体がバレて追い出されたそうです。そして潜入捜査官の一人は何と女性警察官でした(だから驚いた)。というか戦後の時代は容姿を基準に選ばれていた女性警察官が、その実力を認められたのは闇市への潜入捜査でした。
若い警察官が大学生を装って過激派に潜入するのも昭和の時代によくあった捜査です。潜入捜査とはちょっと違いますが、皇族の警備なんかも若い警察官が友人を装っているという噂話があります。

あと警察官ではなくて麻薬取締官ですが、おとり捜査の基準最高裁によって2004年に定められました↓
[解説] おとり捜査の適法性(捜査) : 最高裁平成16年7月12日第一小法廷決定 – Legal Introducer

何で日本で潜入捜査官って流行らないの?現実で

これは作者の深町秋生が解説していますが、潜入捜査官を送り込むよりも組織内のメンバーを裏切らせて情報源にするほうがてっとり早いからです。じゃあ何で『ヘルドッグス』は潜入捜査官やってるんだ?という話になりますが、これはネタバレ要素なので本編をお楽しみください。ちなみに深町秋生の別シリーズ『ドッグ・メーカー』は卑怯な手を使いまくって情報源の人材を集める警察官の物語です。
ドッグ・メーカー―警視庁人事一課監察係 黒滝誠治―(新潮文庫)

何で日本で潜入捜査官って流行らないの?フィクションでも

世界中で大量生産されている「潜入捜査官モノ」ですが、日本だけやたら少ないですね。これは私の推測ですが

  • 日本では「おとり捜査=違法」という認識が強い。
  • 海外のように潜入捜査官が退官後に自伝を出版したりしないので、原作本が無い*2

だと思っています。

ヘルドッグスシリーズって?

ヘルドッグス三部作

ヘルドッグスシリーズ【3冊合本版】『ヘルドッグス 地獄の犬たち』『煉獄の獅子たち』『天国の修羅たち』 (角川文庫)
警察と暴力団との抗争を描いた三部作完結のシリーズです。暴力団を潰すためならどんな卑怯な手でも使う警察側と、超絶凶悪暴力団「東鞘会」との抗争です。刊行順に並べると

  • ヘルドッグス 地獄の犬たち(今回映画化された部分、潜入捜査モノでブロマンス要素強し)
  • 煉獄の獅子たち(前日譚、前半はまさかの恋愛モノ)
  • 天国の修羅たち(完結編、女性刑事モノ)

となります。刊行順で読むか?時系列順で読むか?ですが、刊行順で読んでください。前日譚の『煉獄の獅子たち』は『ヘルドッグス 地獄の犬たち』を先に読んでいるのが前提のどんでん返しトリックがあります。

頂上作戦

ヘルドッグスシリーズが描いているのは警察のいわゆる「頂上作戦」です。詳細はWikiを読んだほうが早いでしょう↓
ja.wikipedia.org

Wikiには書いてありませんが、抗争している暴力団があった場合、警察は暴力団を潰すために片方の暴力団に肩入れし、もう片方の極秘情報(組長の潜伏先など)を暴力団に密告する。というのは日本の警察が現実に使っていた作戦です。『ヘルドッグス』でも同様の作戦が登場します。


殺人描写について


『ヘルドッグス』の発売当初のタイトルは『地獄の犬たち』というタイトルでした(後に改題)。発売当時のキャッチコピーは
「警察官の俺に、人が殺せるのか!?」
でした。

「潜入捜査官モノあるある演出」をやらない

世界中の潜入捜査官モノがほぼ確実にやる「潜入捜査官モノあるある演出」があります。それは
主人公の潜入捜査官が潜入先で殺しを命じられて大ピンチに陥る。覚悟をキメて殺そうとすると
「はっはっは!オマエを試したんだよ」
と言われたりとか
「こいつを殺すのは俺だ!」
って別の人が殺してくれるとか
何だかんだで潜入捜査官の主人公はクライマックスまで人を殺しません。ところが『ヘルドッグス』の主人公はバンバン人を殺します、女子供も拉致します、警察官なのに。同じ岡田准一主演作のザ・ファブル』が人を殺さない殺し屋を描いていますが、その逆ですね。人を殺しまくる警察官です。
潜入捜査官モノの最大の疑問点である
「主人公の警察官が潜入先で、何でそんなにアッサリ出世しているんだよ!」
というのがありますが、ヘルドッグスの場合は明確です。単に誰もやらない殺人仕事を主人公が積極的にやっているから出世するのです。

警察官が人殺していいの?

ヘルドッグスシリーズでは主人公のキルカウントがハッキリと描かれていて14件の殺人事件に直接的に関わっています。この治安大国日本において、人を二人以上殺したらほぼ死刑です。この当たりの落とし前については『天国の修羅たち』でハッキリと描かれます。

オマケ:原作の国木田事件について

ヘルドッグスシリーズの原作では「国木田事件」というのが重要な要素になっています。これは現実に起きた事件なので、今からそれを解説しますが、映画版は「国木田事件」とは全くの無関係です。なので現実の事件と無関係の映画を結び付けられるのも困るので、伏せ字が多めの解説になります。

塩の民が祐ける総て森

みなさん昔ネットで大流行した「お○語録」って覚えてますかね?お○はご存知のようにラブホテルでセックスドラッグを使って女性を錯乱させ119番通報せずに死なせました。裁判では最高裁まで争って何と「保護責任者遺棄致死罪」は適用されませんでした。この事件では、お○以外にもう一人現場に男性がいたのでは?という説があります。その人物が自□党の政治家の△喜氏(故人)です。これが事実ならお○は人生を掛けて△喜氏を庇ったのです(『煉獄の獅子たち』では別人が出頭する)。ちなみに出所後のお○は自□党系の事務所で働いていました。
そして△喜氏の父親は今東京五輪絡みの収賄で話題になっている●理経験もある□さんです。この□親子がヘルドッグスシリーズの国木田親子のモデルです。△喜氏は現役政治家のときに飲酒運転でコンビニに突っ込む大事故を起こしていますが、何故か現行犯逮捕されず通常逮捕になりました(『煉獄の獅子たち』でも、この事故は登場します)。

あとヘルドッグスは宗教団体二世の殺し屋が登場しますが、原作が執筆されたのは2015年なので、完全な偶然です。

完全な余談ですが、ヘルドッグスシリーズはKADOKAWAの本だったりしますが、この記事書いている時に京五輪絡みの収賄KADOKAWA会長が逮捕されました。

*1:ちなみに映画『アウトレイジ』のモデルになったのは2009年のコートジボワール大使館の闇カジノ事件で、別モノなので注意

*2:検索したら、日本でも潜入捜査官の自伝本ありましたが

eスポーツの殺人ミステリー『ゲームオーバー』

ここ数年、ずっとハマっていたニューヨーク版シャーロック・ホームズの『エレメンタリー』が無事最終回を迎えた。せっかくなので私が全エピソードの中でも一番好きなエピソード『ゲームオーバー』をネタバレ紹介する。eスポーツの殺人ミステリーなのだ。

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↑英語だともっと酷くて「(eスポーツの選手は)汗臭いグズのオタク」と言っている。ただしこれは逆張りの伏線で、本編ではリチャード・ギアようなステキなeスポーツ選手が出てくるというお話。

実況中の殺人

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ある日、NY在住の人気配信者がゲーム実況中に襲撃される事件が発生される。NY市警にはアメリカ全土から911以来最多の通報電話がかかってくるが、実況していた場所が分からないので探しようがない。しかしシャーロック・ホームズは実況動画の背景が紫色になっていることから、NYのネオンサインの種類と位置を特定し現場を探し当てる。そして実況者が拷問されて殺されているのを発見する。凶器は巨大な園芸用品らしい。何じゃそりゃ。

eスポーツの天才:テンドゥ

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被害者はeスポーツ選手としては伸びしろが無かったので、有名なeスポーツ選手のエージェント業に手を出していた。警察は
「テレビゲームのプロ?」
と懐疑的だが、ワトソンは
「eスポーツはメジャーだし、高額賞金の大会もある」
と解説する。賞金絡みの犯罪かと思いきや、被害者はエージェント業でトラブルがあった。被害者はテンドゥと呼ばれるカナダの有名プレイヤーを引き抜こうとして、テンドゥが所属するチームと揉めていたのだ。このチームオーナーが第一の容疑者だ。

オタク男子とセクシー女子

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ホームズが揉めていたというテンドゥのチームの寮を訪問すると、美女たちがeスポーツの選手たちを付き添いしているという珍妙な光景があった。
ホームズが
「テンドゥを引き抜きかれそうになって被害者と揉めていたよな?」
と詰問すると、チームのオーナーは
「俺はテンドゥの引き抜きを阻止したんだから、殺す必要は無い。あれ?そういえばテンドゥが出勤してこない、あいつエスキモーなんだよ」
と言う。

凶器はイヌイットの道具だった

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ホームズたちはテンドゥの部屋を調べるが、テンドゥは逃走していた。しかも謎の女性と一緒に逃げている。テンドゥの部屋から殺人の凶器であるハカピックが出てくる。園芸用品だと思われた凶器はハカピックだったのだ。ハカピックはイヌイットがアザラシ漁に使う道具でテンドゥの指紋もついている。ハカピックの鉤を使って被害者を殺したのだ。警察はテンドゥが犯人では?と疑う。

テンドゥはなぜ狙われている

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だがホームズはテンドゥ犯人説を否定する。ハカピックの鉤は手繰り寄せのために使うものであり、殺すときはハンマー部分を使う。イヌイットが人を殺すときはハンマー部分を使うはずだと。←この推理はどうかと思うが、ホームズはテンドゥが暗殺者に狙われている証拠を次々に見つける。暗殺者の目的はテンドゥであり、テンドゥの居場所を知るためにエージェントを拷問した。だがテンドゥに逃げられると、今度はテンドゥの道具を使って被害者を殺して殺人容疑を被せようとしたのだ。

SNSの写真が原因だった

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単なるeスポーツ選手にすぎないテンドゥは一体何をやらかしたのか?そして暗殺者を雇った黒幕は誰なのか?ホームズとワトソンはテンドゥのSNSを調べて、テンドゥがジャーキー食っている写真を見つける。これが動機だったのだ。

過激な動物愛護運動

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警察は過激な動物愛護運動家レイナを事情聴取に呼ぶことにした。左が第二容疑者のレイナで右が弁護士。
世間はイヌイットたちのアザラシ漁を野蛮だと攻撃していたが、テンドゥはあえてアザラシの毛皮をまといアザラシのジャーキーをかじる写真をアピールし、自分たちの文化を主張した。アザラシ漁をバッシングしていたセレブたちもテンドゥに同調した。その結果、動物愛護運動家たちは恥を掻き、セレブからの寄付金も大幅に減ったのだ。怒ったレイナはアザラシを守るためにイヌイット差別者となってテンドゥのSNS
「アザラシじゃなくて、おまえらを絶滅させてやる」
と荒らしまくっていた。レイナの弁護士は必死にレイナを擁護するが、レイナは意外な事実を語る。実はレイナは個人的にテンドゥと会って弁護士抜きで勝手に和解に応じたのだ。レイナは犯人ではない。

オタクに恋は難しい

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捜査は振り出しに戻るが、ホームズはテンドゥと一緒に逃げている女性の名前が「リベナ」だと知って驚く。「リベナ」とはチェコ人の名前で、チームにいたセクシー女性もチェコ人だった。ホームズはチームにいた女性たちがチームオーナーが雇った娼婦であったことを見抜く。彼女たちは娼婦であることを隠しeスポーツ選手を応援するフリしてエロエロな雰囲気に持っていくことで、他チームへの引き抜きを防止していたのだ。ジャンルでう言うところの「オタクに優しいギャルビッチ」ですな。

トゥルー・ロマンス

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だが娼婦のリベナがテンドゥとガチ恋。テンドゥはリベナを解放するために売春斡旋の店と対決しようとしていたのだ。ホームズはあっという間に売春斡旋の偽装工作を見抜いて、店長を探し当てる。


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↑悪質な売春斡旋業者の手口であり、日本企業のことではありません。っていうか世界共通の手口。

プリティ・ウーマン

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第三の容疑者は売春斡旋の店長だ(左の女性)。だが店長は意外なことを語りだす。テンドゥはリチャード・ギアで、リベナはジュリア・ロバーツ彼らは『プリティ・ウーマン』のようだと。
どういうことか?テンドゥは『プリティ・ウーマン』のリチャード・ギアのような大金持ちで、リベナの借金を現金で一括返済したのだ。店長がテンドゥを殺す動機は無い。それよりもテンドゥは何故そんな大金を持っているのか?

スーパーナイスガイ:テンドゥ

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ワトソンはテンドゥの持っているゲーミングヘッドセットが発売されていない高級品だと気づく。販売している中国の会社に問い合わせると(ワトソンは中国系の女性)、その会社はテンドゥの個人スポンサーだった。個人スポンサーを得て大金持ちになったテンドゥは、借金漬けの娼婦を助け、故郷のイヌイットの村に経済支援するナイスガイだったのだ。

暗殺者を逮捕する

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ホームズはテンドゥの潜伏先が娼婦の待機所だと見抜き、そこに行く。そうしたら犯人の暗殺者も登場したので逮捕する。テンドゥとリベナは無事に警察に保護された。
暗殺者は弁護士事務所の汚れ仕事を専門に引き受ける男だった。ホームズは暗殺者を問い詰めて雇い主の正体、つまり事件の黒幕を知るのだった。

地球温暖化のせい

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黒幕は動物愛護運動家の弁護士だったのだ。ホームズは、その長い長い動機を語る。全ては地球温暖化から始まったのだ。

  1. 地球温暖化によって氷が解けて、今まで船が通れなかったカナダ北部にも航路が出来る。
  2. 運航業者はカナダ北部に港を作るため、イヌイットの村の地上げを計画する。
  3. 運航業者は土地買収用の弁護士(黒幕の女性)を雇う。成功すれば数百万ドルの年俸生活となる。
  4. 弁護士はイヌイットの村を経済的に困窮させようとする。
  5. 弁護士は動物愛護運動に協力してアザラシ漁を奪おうとする。
  6. だがテンドゥがあえてアザラシ漁をSNSでアピールすることで、動物愛護運動は失敗する。
  7. さらにテンドゥはスポンサーの契約金を使って故郷への経済支援も始める。
  8. テンドゥが邪魔になった弁護士は暗殺者を雇うが失敗する。

こうして弁護士は逮捕されたのだった。完。

解説

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タイトルの意味

原題は『Rekt in Real Life(現実でフルボッコ)』で、おそらく同じゲームネタが満載のアニメ映画『Wreck-It Ralph(シュガーラッシュ)』のパロディだろう。

バタフライ効果

『エレメンタリー』は複数の動機が絡み合うパターンが多く、本作はその最高峰。動画実況から始まり、ゲーム業、エージェント業、スポンサー問題、動物愛護運動、SNS炎上、恋愛、売春組織と話が拡散し続けて最終的には「地球温暖化が原因だった」という無駄な壮大さが楽しい。ホームズはこれを「逆バタフライ効果」と呼んでいた。

補足

分かりやすく解説するために説明は一部不正確だ。とくにテンドゥは故郷を経済支援したというよりも故郷を政治的に買収したという観点のほうが強い。

  • 伝統を復権しようとする若者(テンドゥ)
  • 伝統を捨てて新しい生活に移行しようとする老人たち

という対立構造も面白い。

イヌイットについて

日本版は字幕・吹替ともに「イヌイット」で統一されているけど、英語では「エスキモー」と「イヌイット」が使い分けられており、容疑者候補たちは「エスキモー」と言う。「配慮ができないヤツは悪人」という意識を逆手に取った見事なミスリードだ。ただ調べてみると「イヌイットのほうが不適切なので、エスキモーを使うべきでは?」という議論もあり難しい問題だ。言葉狩りで解決する問題ではない
アザラシ漁問題も調べてみたけど、あまりにも壮大すぎるのでここでは言及できない。でもかなり面白いです。セレブによるカナダバッシングとか。

人種配置

アメリカの映画やドラマは人種によって役割が固定化されているけど、本作はその傾向が特に強い。ゲームチームのオーナーはアジア系、娼婦は東欧系、マフィアはイタリア系、悪人は白人、さらにサイドストーリーでは黒人ギャングの話も展開する。
娼婦と恋に落ちたタフガイが、娼婦を助ける物語。というのはアメリカ映画の定番キャラクターだけど、それがタフガイじゃなくてゲームオタクのイヌイットだというのは斬新で良い設定だ。

宇宙で父と会う映画ベスト5(ただし物理的に)

映画『アド・アストラ』。16年前に宇宙探査に行って死亡したはずの父親が海王星で生きていることが判明。主人公は父親に会うために宇宙へ旅立つ…。
その設定、何度目だよ!って感じですが、これからも同じ設定の映画が作り続けられます。なぜかというと

  • 主人公=キリスト
  • 父=ファーザー(神)

だからです。
「主人公が宇宙を旅して父に会う」
というのは
「キリストが苦難の道の末に父であり創造主である神と会う」
の比喩になっているのでキリスト教圏の人にとってはシックリとくる物語なんですね。またこの手の映画の主人公は父がいないことに喪失感を感じており、これが「神の不在」を匂わせるようになっています。

ちなみに
「父さんは偉大だった」
的なオチは少なくて
「父さんに振り回された」
的な話のほうが多いです。なぜなら神は人を困らせるものだから。

宇宙で父と会う映画ベスト5

というわけで今回は宇宙旅行の果てに父親と会う映画ベスト5を決めたいと思います。順位は作品の面白さではなくて距離で決めます。

1位:327兆キロメートル

『プロメテウス』
プロメテウス(3枚組)[4K ULTRA HD + 3D + Blu-ray]

ダーウィンの進化論は嘘だった。実はエンジニアと呼ばれる宇宙人(↑の画像の人)が創造主となって人類のDNAを地球にバラまいたのだ。主人公(CV剛力彩芽は創造主に会って話を聞くために宇宙航行に出る。まあDNAの元ネタなので父親じゃないです。

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主人公が父親と宗教談義するシーン。他にも神に言及するシーンが多数。

2位:47億キロメートル

『アド・アストラ』
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父に会うために海王星に行く。現在公開中の映画なので詳細は書きません。

3位:7.5億キロメートル

インターステラー
インターステラー(字幕版)
娘じゃなくて父親が主人公なのですが実は…。7.5億キロというのは土星への距離で、父親はもっと長い距離を旅しています。あのクライマックスに拒否反応を示す日本人が多かったですが

  • 父が子に真理を託す
  • 世間は父からの連絡があったことを信じていない

というのは実にキリスト的な話だったりします。ただ父=神じゃなくて父=伝道師です。

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主人公たちの宇宙旅行はラザロ計画と呼ばれます。ラザロは「キリストの呼びかけで復活する人」という意味です。

4位:9千キロメートル

『コンタクト』ネタバレあり
コンタクト [Blu-ray]
宇宙人から主人公(ジョディ・フォスター)にコンタクトがあった。人類は転送装置を作って宇宙人と会うプロジェクトを立てる。ヴェガまで転送された主人公が出会えたのは何と父親だった…。

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アメリカの下請け日本。

9千キロというのは、主人公が住むニューメキシコから北海道への距離です。転送装置は北海道に置かれるのです。こういったハリウッド映画でアメリカをサポートしてくれる優秀な外国はかつて日本でしたが、日本は元気のない国に落ちぶれたので今では中国とインドに置き換わっています。

主人公の旅が北海道止まりなのか?それとも惑星ヴェガまで行ったのか?は劇中でもハッキリとは描かれません(ヴェガだとしたら237兆キロメートル旅している)。ヴェガまでの転送という突拍子もないことは曖昧に描いているので、全体的にはリアルさが増す手法です。
主人公が無神論者なので「人類の95%が神を信じているのに、地球の代表者に無神論者が選ばれるのは問題では?」という議論が起きたり、映画のクライマックスは「結局、このプロジェクトって税金の使い方として正しかったの?」だったりするのも非常にリアルです。

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インターステラー』の主人公であるマシュー・マコノヒー神の外交官役で出演しています。

5位:100キロメートル

アフター・アース
アフター・アース [DVD]
ウィル・スミス親子が「人間を殺すように進化した星」に不時着する。父・スミスは大怪我で動けない。息子・スミスは父・スミスから無線で指示を受けながら100キロ先の救難発信機を目指す。かつて地球と呼ばれた「人間を殺すように進化した星」の危険をくぐり抜けながら…。
父に会いに行く映画ではありませんが、父からの啓示を受けながらの旅したり仮死状態から復活したり、ちょくちょくキリストへの連想ネタを挟んできます。ただキリストよりもギリシャ神話のほうが影響強いかな。



ちなみに『アフター・アース』以外の4作品、全部母親が死んでます

オマケ:ポリコレ的に間違っている宇宙人4コマ

『コンタクト』で超面白いシーン。宇宙人から人類に映像が送られてくるのだが…
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何とヒトラーベルリンオリンピックの映像だった!

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大パニックになるアメリ

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主人公たち科学者は「いや、アレが史上初のテレビ放送だから」と反論するけど…

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スキンヘッド白人のネオナチたちは大喜び。


ちなみに『アド・アストラ』と似たような設定の映画で1997年の『イベント・ホライゾン』がある。悲劇の失敗作としても有名(前倒し公開で失敗した、詳細はWikiにある)。
イベント・ホライゾン (字幕版)


ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』も宇宙で神である父に会う話でしたね。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス (字幕版)

キャプテン・マーベルの音楽ネタ解説

パンフレットや雑誌とかにも解説が少なかったので、私が分かる範囲で『キャプテン・マーベル』の音楽ネタについて書きます。

フェミニストのアンセム

クライマックスで流れる音楽はフェミニストのアンセムと呼ばれているノー・ダウトの『Just A Girl』です。歌詞の内容は女性のステレオタイプへの皮肉ネタです。


  • 私はただの女の子だから権利なんていらない
  • 私はただの女の子だから車の運転ができない
  • 私はただの女の子だから負担になる

このような偏見に抗う曲です。まあ歌詞の意味わからなくとも女性が大活躍するバトルシーンで「私はただの女の子!」という曲が流れるギャップが面白い。

ファッションについて

ガンズのアクセルのコスプレしていたキャプテン・マーベルが、90年代になるとナイン・インチ・ネイルズのシャツを着ていましたね。時代の変遷を描くファッションです。
私が大学生だった90年代後半、友人が
「ガンズブームが本当に嫌だった。ニルヴァーナとかナイン・インチ・ネイルズが流行ってきて本当に良かった」
と言っていたのをなんとなく思い出した。

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↑ナイン・インチ・ネイルズのシャツを着るキャプテン・マーベル。でもアクセルのコスプレはネット上探しても画像無かった…。個人的には劇中最高の名シーンだった。


ニルヴァーナとガービッジ

精神世界に行くシーンではニルヴァーナの『Come As You Are』、キャプテン・マーベルがバイクで疾走するシーンはガービッジの『Only Happy When It Rains』が流れます。どちらも内向的な歌詞で90年代はこういう曲が人気でした。今風に言えば「病みソング」とかでしょうか。

311

音楽ネタで一番驚いたのは311(スリーイレブン)のポスターが登場するシーンです。
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私は311の大ファンなので嬉しいけど「なぜ311?」感が強いです。この『Music』はヒットした作品でも無いし、出来もそんなに良くない。ごく一部のマニアを唸らせるためだけにポスターを貼ったような気がします。

ラストに流れる音楽

ラストシーンの音楽はホールの『Celebrity Skin』です。歌うのは創価学会員のコートニー・ラブ。

つまりこれは『アベンジャーズ/エンドゲーム』への伏線です。『アベンジャーズ/エンドゲーム』では世界を救う集団として公明党が登場、死んだキャラクターも全員南妙法蓮華経で生き返り、池田大作先生がサノスを倒して世界は救われ、ラストシーンにはアベンジャーズ全員が聖教新聞の一面にアッセンブルするのです(全部ウソ、学会員なのは本当だけど)。


これがホール。ボーカルのコートニー・ラブがカート・コバーンの妻で、ベーシストのメリッサがデイヴ・グロールの恋人という人間関係も凄いバンド。

  • もっと詳しい人の解説はコチラ

【音楽解説】『キャプテン・マーベル』劇中歌が伝えるテーマ ─ キーワードは「90年代」「ライオット・ガール」「グランジ」 | THE RIVER

  • 『ジャスト・ア・ガール』の和訳

No DoubtのJust A Girlの歌詞を訳して下さい! - No DoubtのJust ... - Yahoo!知恵袋


日本では洋楽ヒロインというとマドンナ、ビヨンセ、アリアナ・グランデといった歌姫系のインパクトが強いでしょうが、洋楽ロック界ではどの時代にも姐御感溢れる洋楽ヒロインが登場してシーンを引っ張ってきました。ガービッジ、ノー・ダウト、ホールも90年代を盛り上げた姐御たちで、彼女たちをBGMとして使うのが新時代のヒロインのキャプテン・マーベルなわけです。
ロック系ではないけど他には、日本でも大人気だったTLC、女性初のヒップホップでグラミー賞を受賞したソルト・ン・ペパーの曲も劇中で流れます。