世界はW杯で盛り上がっていましたね。サッカーに興味の無い私ですが便乗して私が一番好きなサッカー映画を紹介します。2005年の英米合作映画『フーリガン』です。私は映画館で観て以来DVDで何度も繰り返し観ているほど好きな映画です。
アメリカとイギリスのカルチャーギャップ映画として面白いのです。内容は今からネタバレ解説しますが、不良漫画の『特攻の拓』と大体同じです。
エリートになれなかったアメリカ人の主人公
- イライジャ・ウッド演じる主人公はハーバード大学の学生だったが、卒業を目前にして退学する。
- 実はルームメイトの政治家一族のお坊ちゃんが学内でコカイン吸引していた。このスキャンダルから政治家一族を守るために無理やり身代わりにされたのだ。
- 主人公は口止め料を貰うが、誰も自分を守ってくれないアメリカに絶望する。
- 失意の主人公は、イギリス人と結婚した姉を頼って渡英することにした。
イギリス到着
- ようやく到着したイギリスだが街中は荒れていた。
- 主人公「テロ攻撃でもあったの?」
- 姉「昨日、試合があったので…」
- 主人公「サッカーの?」
- 姉「大英帝国ではサッカーは禁句よ!」
フーリガンのリーダー、ピート登場
- 姉の自宅に行った主人公は、初めて姉の夫(義兄)に合う。義兄はイケメンで優しくてお金も稼いでいるイギリス紳士だった。
- だが義兄(画像左)の弟ピート(画像真ん中)が人間のクズだった。このピートがもう一人の主人公だ。
- ピートはフーリガンで、酔っぱらいで、言葉遣いが暴力的で、義兄に金をたかりに来ていた。
- ピートは「米国人なんか嫌だ」とあからさまに敵対的だ。時代は2005年、イラク戦争でアメリカが誤爆でイギリス軍を殺したこともあって、反米感情が強い。
弱すぎる主人公
- 義兄はピートに金を渡さずに主人公に金を渡す。
- 主人公が姉や義兄と別れると、ピートは速攻で主人公をカツアゲする。
- あっという間にカツアゲされる主人公を見てピートはアメリカ人の喧嘩の弱さにビックリ。可哀想なのでサッカーの試合に連れて行くことにした。
フーリガンと会う
- 主人公はパブに連れて行かれ、ピートの不良仲間たちのフーリガンと合流する。彼らは女性差別やレイシスト発言もする見事なクズ達だった。警察からもマークされている。
- 彼らはコックニー(ロンドンの労働者階級の言葉)を喋る。コックニーは押韻スラング(ダジャレみたいなもの)を多用する特殊な喋り方だが、頭の良い主人公は押韻スラングを理解できるため、割りと受け入れられる。
- さらにピートが「このアメリカ人は映画『ベスト・キッド』のモデルだ、ミヤギ先生の弟子だ」と嘘ついてくれたので、主人公はフーリガン達から尊敬される。
人生初めてのケンカ
- 生まれて初めて見るサッカーの生試合に主人公は大興奮する。
- 主人公は一人で帰宅中に相手チームのフーリガンに襲撃される。
- そこにピートたちが助けに現れる。ピートたちフーリガンは絶対に仲間を見捨てないからだ。
- 主人公はピートたちの姿に感動する。ピートたちもケンカ弱いくせに根性のある主人公を認める。
伝説の少佐
- ピートは主人公にフーリガン同士の抗争について説明する。
- 主人公がアメリカの野球チームに例えると、ピートは「イスラエルとパレスチナさ」と答える。そこまで過激なのだ。
- アメリカ人の主人公は過激な抗争に驚くが、イギリス人であるピートから見ればアメリカの銃社会のほうが狂っている。
- ピートがリーダーを務めるフーリガンはGSE(Green Street Elite、映画の原題にもなっている)と呼ばれている。凶暴なフーリガンだが、他のフーリガン団体からは舐められている。
- 何故ならかつてのGSEは「少佐」と呼ばれる伝説の男が率いていたのだが、引退してしまったのだ。
- 「少佐」は史上最悪に凶暴な男で、敵フーリガンとの抗争では死者まで出した。
アメリカ人への洗礼
- 普段のピートは少年サッカーのコーチで収入を得ていた。
- ピートは野球好きのアメリカ人を「異教徒」とまで呼ぶ。
- 主人公はGKとして少年サッカーに参加するが、小学生相手にボッコボコに負ける。
主人公の機転
- ピートたちはアウェイの試合を観に電車に乗るが、駅では敵フーリガンたちがピートを倒すためにフーリガン軍団を作って待ち構えていた。
- 主人公はトラックを借りて、フーリガン軍団の真っ只中に行く。
- 主人公「キャメロン・ディアス(アメリカを象徴する女優)の新作映画の撮影準備ッス、通してください」
- 敵フーリガン「キャメロン・ディアスは最高!よし通れ」
- こうして敵フーリガンたちを出し抜くことが出来た。主人公はフーリガンたちからも「あのアメリカ人やるじゃん」と尊敬されるようになった。
- 相変わらずケンカは弱いが、それでも主人公は楽しくフーリガン人生を謳歌する。
マスコミ嫌い
- 主人公の姉が夫に「弟は大学で報道学を学んでいたのよ」と言うと、義兄の顔が青ざめる。
- 義兄は大急ぎでフーリガンの溜まり場に行き、主人公にフーリガンを辞めるように説得する。
- 実はフーリガンたちは大のマスコミ嫌い。主人公が報道学を専攻していたと知ったら大騒ぎになるのだ。
- 主人公は「退学したから関係ない」と反論するが、義兄は主人公をフーリガンの溜まり場から連れ出そうとする。
少佐の帰還
とんでもラスト
- このあともフーリガン仲間の内紛や、敵フーリガンの事情、主人公家族の事情なども描かれるけど省略。フーリガン同士の抗争は過激化する一方だ。
- 主人公は無理矢理アメリカに帰らされることになった。だがフーリガン同士の決戦があるため駆けつける。最後の戦いだ。
- その最後の戦いでピートが殺される。みんなが悲しむのがイギリスでのラストシーン。
- 暴力は不幸しか生まない!という結論にしか思えないが、主人公は「ピートの生き様に学んだ」「彼の生き方を汚しはしない」とか言い出す。
- アメリカに戻った主人公はピートのセリフ「Stand Your Ground(引かずに立ち向かう、続編のタイトルになった)」を胸に、自分を退学に追いやったハーバード大学の学友をブチのめしに行くのであった。完。
解説
- クライマックスからラストはかなりのトンデモ展開だが、暴力を否定しつつ主人公の成長を描くにはコレしか無かったと思う。
- アメリカ人の逞しい主人公が外国の文化に入り込み、そこで闘争に打ち勝ち、現地の女性と恋仲になり、最後はリーダーとなる!という所謂「白人酋長」と呼ばれるジャンルの映画があるが、本作は全然違う。
- 主人公はケンカ弱いし、女性は全然出てこない。最後はリーダーになれずにアメリカに戻る。ケンカが弱い小柄な主人公が暴力集団で奮闘するというのは、アメリカよりも日本の不良漫画によくあるパターンだ。これが斬新で面白い映画だった。
- 「女性は全然出てこない」と書いたが、実際はピートがヒロイン的存在だ。
- 自国に絶望した主人公が、外国の保守的なコミュニティで受け入れられる。という本作のアイデアはいくらでも翻案できそうなので、本作はもっと注目されて欲しい。
監督について
- 男性コミュニティの悪いところを煮詰めたような映画ですが(劇中ではおしゃべりな女性を暴力で脅すシーンもあり)、監督のレクシー・アレクサンダーは女性。不適切な男性コミュニティを魅力的に描く手腕はお見事だ。
- レクシー・アレクサンダーの経歴はかなり特殊で、松濤館空手の黒帯で、キックボクシングのヨーロッパ王者だ。10代でプロの格闘家としてアメリカに行く。そこでチャック・ノリスがパトロンになる形(チャック・ノリスはそういう移民の支援をしている)でスタントウーマンとして活躍。そして映画監督になる。
- 映画『フーリガン』を成功させたレクシー・アレクサンダーは映画界で話題となり、マーベルの『パニッシャー:ウォー・ゾーン』に大抜擢される。これはマーベル映画で初の女性監督だった。しかし『パニッシャー:ウォー・ゾーン』は失敗、彼女はマーベル側とも揉めた(女性監督へのギャラが安いことを批判するなど色々と暴露した)。その後は大作映画は撮っていない。現在では「マーベル映画で初の女性監督は2019年のアンナ・ボーデン」という事になってしまった。MCU前の話とはいえ、ちょっと酷い。
- 最近マーベルのライバルのDCが連続して女性監督をクビにして「マーベルならちゃんとしている!」という意見を見かけたけど、マーベルにも失敗の歴史はあるのだ。
シリーズ化
- 本作は3まで作られている。2ではほとんどのキャストが降板。敵フーリガンのリーダーが主人公になっているが、本作のラストの抗争で逮捕されたという設定で、2は刑務所映画になっている。